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2013/03/24

スーパーセブン(ジンバブエ産)


ルチル入りアメジスト
Amethyst/w Rutile Inclusions
Chundu, Kazangarare, Zimbabwe



タイトルはスーパーセブンだが、写真の石は定義上、スーパーセブンではない。
被害が拡大中の "スーパーセブンもどき" に渇を入れるため、ここで改めてスーパーセブンについて考察するのが、今回の目的である。

あちこちで見かける昨今のスーパーセブン(セイクリッドセブン・メロディストーン)は、実はスーパーセブンではない。
スーパーセブンに関する前回の記事(→こちら)にも記したように、ブラジルのエスピリトサント州のインクルージョン入りアメジストを指して、スーパーセブンと呼んでいる。
現在国内で主流となっているスーパーセブンは、アフリカや中国から産出したもの。
鉄由来の成分であるレピドクロサイトやゲーサイト、ヘマタイトなどが見えるアメジストが、高波動の石スーパーセブンとなって、量産されているのである。


今一度、スーパーセブンの定義を見てみよう。

  • ブラジルのエスピリトサント州の鉱山から1995年に発見されたスモーキーアメジスト
  • 水晶、アメジスト、スモーキークォーツ、ルチル、ゲーサイト、レピドクロサイト、カコクセナイトの7つの要素から構成される
  • エレスチャル成長していることが多い
  • 鉱山は水没し、絶産している
  • 南インド産など他の産地から出た似た石は、定義上スーパーセブンと呼ぶことはできない

以上が現時点でわかっているスーパーセブンの基準。
既に絶産しており、1995年発見のオールドストックにはプレミアが付いている。
市場に流通している信頼のおける確実なエスピリトサント産スーパーセブンは、鉱物標本として流通しているスモーキーアメジスト。
実は2004年に新しく発見された鉱脈から得られたものらしい。
世界的にも主流となっているのもこれ。
エスピリトサントの他所から次々にインクルージョン入りアメジストが発見され、あたかもオリジナルのような価値を与えられて現在に至るというわけである。

後発の新しいスーパーセブンには、ヘマタイトが含まれていることが多々あった。
そのためスーパーセブンには8つの要素が…と解説していたり、最初からヘマタイトが入っていると説明しているサイトさまを見かける。
しかしもともとスーパーセブンの7つの要素にヘマタイトは無い。
また、ルチルが入っているスーパーセブンが見当たらないというのは謎である。

写真は意外に見かけない、ルチルの金の針が入ったアメジスト。
近年ジンバブエから発見されたこの美しいアメジストには、見事な細い金の針が詰まっている。

カコクセナイトについては諸説あるが、昨年エスピリトサント州フンダンより半世紀前のストックが発見され、カコクセナイト入りとして高く評価された。
私も昨年、偶然にも鉱山主さんから直接入手した。
同じ時期に米Heaven&Earth社より独占買収があり、鉱山主さんからの放出は無くなったそうだ。
それらはロバートシモンズ氏によりパープルアンジェリンの名を与えられて、小さくカットされて流通している(→詳細はカコクセナイトアメジストにて)。

私は例のごとく、違和感を受けた。
エスピリトサント産インクルージョンアメジストであれば、正統派スーパーセブン。
…のはず、だった。
しかし、カコクセナイトアメジストは、エスピリトサント産にも関わらず、スーパーセブンではないことが明記されていた。
調べてみたら、エスピリトサント州は世界に名だたるアメジストの名産地で、複数のアメジスト鉱山が稼動中だった。
つまり、現在手に入る本家スーパーセブンというのも所詮、偽物に過ぎなかったのである。

ルチルはどこから出てきたのか。
ルチルを内包するクリアクォーツ、或いはスモーキークォーツは、世界中から発見されている。
しかしアメジストに関しては、ヘマタイトやゲーサイトなど鉄関連鉱物のみ。

先日、大先輩にあたるK女史が、ルチル入りアメジストというのは実在するのか?と指摘されていた。
存在はしていることを思い出した。
このジンバブエ産アメジストはルチル入りアメジストとして購入したもの。
アフリカ産出にも関わらず、詳細な産地もわかっている。
ゲーサイトやレピドクロサイトなどの赤い針に混じって見える細いゴールドの針は、明らかにルチル。
極太の金のインクルージョンは一般にカコクセナイトとされているが、その様子とは明らかに異なるものである。




同じジンバブエ産アメジストの裏側が写真左。
右は側面から撮影している。
ルチルの針が見えるのはおわかりだろうか。
一見するとクラスター、途中からエレスチャル状に結晶している。
ジンバブエ産は主にエレスチャルアメジスト、他にセプタータイプが特徴となっている。

南インド・カルール産アメジストにも似た透明感、豊富な内包物、そして美しい結晶形。
紫の色合いの美しさはカルール産アメジストには及ばないが、内包物そのものの美しさや豊富さにおいてはジンバブエ産を推したい。
現在宝石やペンダントとなって高額で流通している "レアな本物のスーパーセブン" は、南インド、カルール産である。
スモーキーの色が少なく、どちらかというとシトリンの割合が多い。
高いからといって本物とは限らないので、注意していただきたい。

パワーストーンブームに火をつけるかのように登場し、インクルージョンという言葉を一気に身近にした魔法のクリスタル、スーパーセブン。
2004年の時点で、もう違うものが流通を始めていたということになる。
2年後に私が鉱物の世界にたどりついた時には、既に南インド産が主流になっていた。
現在主流の中国産 "スーパーセブン" は内包物に乏しく、美しさに欠ける。
期待のオーラライトにはインクルージョンそのものが見えない。

スーパーセブンのブレスレットは中国産アメジストなのだから、チベタンセブン等に改名するべきである。
などと思っていたある日、私は1995年発見とされる本物のスーパーセブンを拝む機会に恵まれ、ようやく納得した。
メロディ氏が発見したスーパーセブンには、ルチルが入っていた。
当時のサンプルからはヘマタイトが出なかったってことなんだろう。
世界的にはヘマタイトを内包した水晶のほうが一般的であり、ピンクファイヤークォーツや、カザフスタンのストロベリークォーツも現在はヘマタイトインクルージョンというのが通説となっている。

クリスタルヒーラーのA・メロディ氏によって見出された最初のスーパーセブン。
現在はクリスタルヒーラーのオールドコレクションがわずかに流れているだけのよう。
発見者のメロディ氏自身、分けてくださるような手持ちはないと踏んでいる。
入手は極めて困難である。
ただ、スーパーセブンのパワーがいまいちよく伝わってこないと思っておられた皆様にとっては、朗報となろう。




41×40×32mm  36.16g

2012/09/16

プラチナルチル(ブルッカイト)


ブルッカイト入り水晶
Quartz with Brookite
Kharan Mountains, Baluchistan, Pakistan



パキスタン・カハラン産出の有名な水晶。
希少石ブルッカイトを伴って発見されるこの輝かしい標本は、世界中でその価値を認められ、高い評価を得ている。
日本では特にブルッカイトのインクルージョンに価値が置かれている。
レアストーンブレスの定番商品としてご存知の方も多いはず。
プラチナルチル、ブルッカイトルチル、またプラチナクォーツとも呼ばれ、高額で取引されているという。
水晶内部に広がるブルッカイトのシルバーの強い輝きがプラチナを思わせるため、誰が呼んだかプラチナの愛称で定着した。
ブルッカイトは、厳密にはルチルとは異なる鉱物なのだが、両者には連続性がある。
この標本においても、ブルッカイト及びルチルの針状インクルージョンが同時に認められる。

ブルッカイトはルチル、アナテースとともに重要な酸化チタン鉱物に数えられ、幅広い需要がある。
いずれも関連性が認められ、しばしば共生して発見される。
現地からはブルッカイトだけでなく、ルチル、アナテースの産出もある。
ブルッカイトの和名は板チタン石(そのまんまですね)とされるが、もはやプラチナルチルに変更になったかのような勢い。
残念なことに、プラチナは入っていない。
初期には水晶にプラチナが入っているものと思い、買い求めた人々も多かった。
プラチナルチルは和名であり、愛称である。
海外で使うと誤解を招くおそれがあるので要注意。
また、シルバーの針のみえる水晶のすべてがブルッカイト入りであるとは限らない(例:希少石アンカンガイトを内包する水晶のルース)。

ルチルクォーツやトルマリン入り水晶を「プラチナルチル」としているケースが目立つ。
ルチルクォーツのブレスを、プラチナルチルとして高額で購入された方も少なくないようだ。
写真の標本のように、ルチルとブルッカイトの両方が入っている場合は差し支えないと考える。
しかし、ブルッカイト入り水晶に太いゴールドの針が見えるとは聞かない。
鑑別書は肝心の鉱物名が隠れていて、見えない。
以下に参考資料を引用させていただく。

ブルッカイトではなくルチル入りのおそれがあるケース:
例1)http://store.shopping.yahoo.co.jp/ashiya-rutile/13mm24rt-0206-54-kyo.html
例2)http://store.shopping.yahoo.co.jp/luz/0241pur54.html

私には、インクルージョンを外観から判断できるほどの知識や経験はない。
ただ、プラチナルチルはシルバーグレーのブルッカイトの極細の針状インクルージョンを指して使われていた言葉だった。
写真の原石についても、インクルージョンとしてはルチルの割合が高いとみられる。
しかしながら有り難いことに、堂々たるブルッカイトが共生している(ピンボケしたので写真を二枚に分けました。後日撮り直します!)。
ブルッカイトの大きな板状原石(→本文下の写真及び結晶先端の拡大写真)が水晶の隙間に確認できる。
ワインレッドを帯びた強い光沢を伴うシャープな結晶は、まさに世界中の収集家を魅了し続けるパキスタン産ブルッカイトの醍醐味。
この産地からのブルッカイト、またアナテースは欧米では異常とも言える人気ぶり。
水晶と共生したブルッカイトの標本は、ダメージがない場合、概ね100ドルを超える貴重品となる。

いっぽう、クリスタルヒーリングにおいては、高次のチャクラを活性化させ、人々を高みに導くクリスタルとして、アゼツライトやフェナカイトに並ぶ最も重要なヒーリングストーンのひとつに数えられている。
このような希少石が分野を超えて愛されたのは、パキスタンから数多くのブルッカイトが届けられたからに他ならない。
欧米を経由するととんでもない金額になってしまうブルッカイト。
私たちがそうした希少石を良心価格で入手できるのは、日本に活躍する多くのパキスタン人ディーラーのおかげであることを忘れてはならない。

金、銀、銅のグラデーションに彩られたインクルージョン。
流れるような繊細な糸が輝くさまは、誰も入ることの無い秘境で見た奇跡の光のような、純粋な感動を与えてくれる。
なお、この産地の水晶には、アンハイドライト(エンジェライト)のチューブ・インクルージョンが入ることがあるらしい。
よく見ると、空洞のような針もみえるので、もし原石をお持ちの方がおられたら、お宝チェックをしていただきたい。
見どころは満載である。

プラチナルチルはあらゆる奇跡と富をもたらすパワーストーンとされている。
何十万もするプラチナルチルのブレスレット。
富がもたらされるならば何としてでも買わねばならぬ。
しかしながら既に、プラチナルチルのブレスにキラキラとレインボーが輝き始めた方は多いことだろう。
そのレインボーは、次のプラチナルチル・ブレスへの買い替え時を意味している。




45×37×25mm  30.48g

2012/09/14

ウィッチズフィンガークォーツ


ウィッチズフィンガークォーツ
Witches Finger Quartz
Kitwe, Copperbelt Province, Zambia



ルチル、マイカ(雲母)、ヘマタイトなどを含む珍しい水晶。
時に赤いヘマタイトに覆われていることもある。
本来は細長いポイント状で産出したものを指すが、こちらは塊状の原石を磨いたタンブル。
このウィッチズフィンガークォーツ、欧米ではヒーリングストーンとして安定した人気がある。
アフリカのザンビアから産出するというのも面白い。
ただ、日本での人気はいまひとつ。

ウィッチズフィンガークォーツを直訳すると、魔女の指の水晶。
魔女の指というと、鋭く伸びた爪がギラリと光る、それはそれは不気味なイメージ。
魔女、特に年老いた魔女は、必ずと言っていいほど悪役として登場する。
クリスタルヒーリングの盛んな英米では、魔女はさほど恐ろしい存在ではないようである。
世界は広い。
ある時、ドイツ人女性に「アナタは魔女?」と真顔で聞かれたことがある。
ドイツは確か、魔女狩りが最も盛んだった国。
生粋の日本人ゆえ、いまだその真意についてはわからない。

ウィッチズフィンガークォーツのポイントは、いかにも指、である。
それも、ゴツゴツした老婆の白い指を想起させる。
抵抗を覚える人も多いだろうからと、タンブルを中心に揃えた。
「魔女の指」を「魔法の指」と言い換えるなど、試行錯誤してもみた。
しかしながら現在も、私の中のレアストーンリストに残ってしまっている。

世界を放浪していた頃、たまたま東京のゲストハウスで働くことになった。
新店長の名前は「魔女」と定められた。
最終学歴は魔法学校ということになっていた。
どういういきさつだったか忘れたが、勝手にそうなっていた。
"魔女的な人" として扱われるのは今に始まったことではない(子供の頃は宇宙人だったが、成長に伴い魔女になったような気がする)。
私が知らぬ間に人々を脅えさせているのではないかと悩んだ。
或いは、どこか浮いているだろう、と。
この石を大切にしているのは、ウィッチズフィンガークォーツとの出会いがきっかけで、魔女のイメージが変わったからだ。

ウィッチズフィンガークォーツには、二面性があるといわれている。
煽るかのような強力なエネルギーを引き出す一方、持ち主に深い安らぎへと導くという。
また、波瀾万丈な運命に苦しむひとを癒し、自らの生まれ持った使命を悟らせる力もあるそうだ。
これから歩んでいく、まだ見ぬ道を照らすというこの石が、どうして怖いだろう。
そう、日本にあっても、魔女は必ずしも悪い意味とは限らないのだ。

何事も、頼りすぎはよくない。
だけど、石に少なからず関心を持つあなたなら、パワーストーンの魔法に憧れたことだって、一度はあるはず。
私も同じ。
理由はなんだっていい。
教科書に載っているパワーストーンの意味とは、少し違っていたとしても。


34×28×12mm  15.21g

2012/08/13

幸せのガネッシュヒマール


ガネッシュヒマール
Quartz/w Calcite
Ganesh Himal, Himalayan Mts., Dhading, Nepal



ネパール・ガネッシュヒマール産、両端がフラット、奇妙な干渉の形跡がみられる変形水晶。
全体がグリーンのクローライトに覆われている。
傷跡のような箇所から、さらに小さな結晶の成長した様子も伺える。
それらが本体に入り込んでいるから、貫入水晶でもある。
中央付近には内部の見える透明部分があり、クローライトに混じって、細かなルチルの針が見える。
ボトムには、カルサイトの結晶が挟まっている(本文下の写真)。
昨年冬の池袋ショーで見つけた珍石。
売り手がネパール人だったので、ともだち価格(※ネパールを旅したことのある人に与えられる特価)で購入した。

トップの画像がなんだかわからなかった方もおられるかもしれないが、これは上から撮影した。
両端が、何かにつっかえたためか、平らになっている。
根元付近は白濁しているが、ダメージが修復され、次世代の結晶たちに囲まれている。
こうした水晶は、何と呼べばいいのだろう。

お店の方は、グリーンの内包物の隙間から見えるルチルにもっぱら価値を置かれていた。
なにしろ、

●商売繁盛を意味するガーデンクォーツ!(緑や赤の内包物が浮かぶ水晶)
●金運アップのルチルクォーツ!
●全ての水晶の中でもっともパワーがあるとされるガネッシュヒマール!


コピペで申し訳ないが、人気要素が満載だ。
だが、本質はもう少し深いところにあるような気がするのである。
特殊な環境下において、複雑な過程を経て形成されたと考えられるからである。

ヒマラヤ山脈を代表する水晶の産地、標高7110mもの高さを誇るガネッシュヒマール。
緑のクローライトをまとった水晶は、ガネッシュヒマールの5000m級の高所から産するといわれている。
かつてはダメージを受けた標本、白濁した標本が一般的だった。
私が2年ぶりに鉱物の世界に戻って驚いたことのひとつに、ガネッシュヒマール産水晶の質が、驚くほど向上していたということ。
その価値に気づいたネパールの人々が、以前より丁寧に扱うようになったためだと聞いている。
ミネラルショーにおいて、氷のように澄んだクリアなガネッシュヒマールが並ぶさまは圧巻であった。
この美しさを知らないまま、鉱物の世界を離れていった人々のことを想った。

特定されてしまうおそれがあるので細かな描写は控えるが、ネパール人のアシスタントをされていた日本人男性は、元バックパッカーとみられる。
世界(主にアジア)において放浪の旅を続ける怠惰な人々を指して、バックパッカーと呼んでいる。
彼もヒマラヤで放心しているさい、たまたま水晶の価値を知ったのだろう。

ヒマラヤといえば、アンナプルナ産水晶をご存知だろうか。
アンナプルナ産水晶は、数は少ないものの、比較的流通がある。
それは私にとって、とても嬉しいこと。
アンナプルナは一般人も登ることのできるごく普通の観光地である。
私は体力がないため、途中までしか登っていないが、思い出深い土地に変わりない。
アンナプルナは標高8091mと、非常に高い山である。
具体的には、空が山に覆われて見えない。
圧迫感すら覚える。
高山病を避けるため、外国人は数日をかけて登頂する。
麓にあるポカラの街は観光地として知られている。
トレッキングを趣味とする人々だけでなく、バックパッカーやヒッピーたちもポカラに集まり、穏やかな日々を満喫する。
現地ネパールの人々は高山に慣れているため、ガイドとして活躍している。
怠惰きわまりないバックパッカーの中にあって、果敢に頂上を目指す者も少なくない。
同室の日本人によると、アンナプルナの頂上に無事到着した彼らは、折角だから記念にバレーボールをしようぜ!
と、いうことになったらしい。
当初、余裕の表情を浮かべていたバックパッカーたちは、次々と高山病にかかり、倒れた。
ネパール人ガイドらはバレーボールに夢中になり、それに気づくのが遅れたという。
アンナプルナから瀕死の状態で戻ってきた同室の面々が持ち帰った、悪そうな植物の山を眺めるにとどめておいた。
水晶を持ち帰った人はいなかった。

私は当時、怠惰この上ないことで有名な(?)バックパッカーだった。
アンナプルナへは途中までバイクで登り、満足して宿に戻った。
ある事情があって、外国人に明かすことは許されない(と現地の人が)という、ポカラにおける最高位の聖者が棲む寺院には行った。
根性を試すため、湖の先のダムを徒歩で渡るなど、命知らずな行為にも及んだ。
あとはネパール人に誘われて、どこかの山に(バイクで)登ったくらいだ。
頂上から見た朝焼けを今でも覚えている。
徐々に霧が晴れ、ポカラの街や湖が遠くに見えるさまは、買い付けの旅に終わらない新しい世界の始まりを予感させた。
瀕死のバレーボール青年とは、のちに偶然インドで再会することになるのだが、その話はまた、いつか。

お店の元バックパッカーに、ガネッシュヒマールを見たことが無いというと、あれはガネーシャの形をしているんだ、と教えられた。
なるほど、神の棲む山なのだな。
ルチルやガーデンが商売繁盛(=幸福)に結びつくのは東南アジアに独特の傾向で、欧米の人々には、この水晶の何が幸せなのか理解しがたいであろう。
また、ガネッシュヒマールという名の鉱物は存在しない。
山の名称である。

さて、この標本の本質とは。
人気要素のみならず、通好みの要素も満載されているのである。
ロシアのダルネゴルスクから産するグロースインターフェレンスクォーツ(→参考写真。これらは極端な例だが、干渉による変形水晶たち。右上のみ産地は異なる)のような切り込みが、ザクザクと入っている。
グロースインターフェレンスクォーツは、カルサイトなどの異物が水晶の成長を妨げた結果、通常の水晶にはない独特の形状を示すものをいう。
有り難いことに、この標本にはカルサイトが挟まったまま残っている。
ダルネゴルスク産グロースインターフェレンスクォーツは、あたかもリストカットのように平行に刻まれた痛々しい痕跡を特徴とし、白濁して発見されることも多い。
この水晶には、そこまで激しい傷跡はみえない。
しかしよく見ると、切り刻まれた跡が修復され、別の結晶が成長している?
随所にダルネゴルスク産グロースインターフェレンスクォーツとの共通点が見受けられるのは興味深い。

この石のパワーや効能については、わからない。
どんな病気や困難も乗り越えられる奇跡の水晶と解釈される方もおられるかもしれないが、人間である以上それは困難である。
もしかすると、こうした標本も意外に存在するのかもしれないが、外国人が入るには、体力的に無理がある。
見た目が冴えないから見逃されている?

可能であればお手持ちのガネッシュヒマールを、今一度チェックしていただきたい。
グロースインターフェレンスクォーツは、持ち主に危険が迫っていることをいちはやく知らせるとともに、困難を乗り越える力を与えてくれるといわれている。




未測定

2012/01/01

ルチル(原石)


ルチル Rutile
Diamantina, Minas Gerais, Brazil



ルチルクォーツを見たことのない人っているのだろうか。
全盛期には、手のひらサイズのスフィアが400万という、破格の値段を付けるほどに大流行した。
いっぽうで問題を起こし、論争を巻き起こし、善からぬ人々を招きいれ、それらが現在も解決していないという奇妙な存在。
なぜ、未だに解決しないのか。
正月だけに、縁起のよさそうなルチルで新年を祝いつつ、考察をしてみたい。

ことのなりゆきはブルールチルで取り上げた。
要は、ルチルクォーツには様々な色合いがあり、人々はもはや、水晶に入ってる針=「ルチル」であるものと認識していた。
鉱物をこよなく愛する人々にとって、その誤認の定着は、不愉快極まりない出来事であった。
ルチルはあくまで鉱物のひとつでなければならない。
俗に言われる『阿鼻叫喚のルチル闘争』がそれである(無い)。

ふと、思った。
ルチルの原石を見たこのある人ってどれくらいいるのだろうか。
あれからかなり経つのに、現在もあちこちで論争を見かける。
以前は、誤認ゆえの成功と記したが、ルチルの原石にも原因があるように思える。
ルチルクォーツのゴールドの針のイメージとはかけ離れた姿、と説明することはできる。
色合いは?結晶の形は?
そう聞かれても、一言では説明できない。
じゃあ結局、ルチルの原石ってどんな石?

写真の標本はルチルクォーツの全盛期に、ひっそりと棚に並んでいた、ルチル(金紅石)の原石。
「網状双晶を示すルチル」と書いてあった。
小さいながらも、メタリックでキラキラしていて、形もカワイイ。
当時ルチルクォーツのブレスは、安いところでもこれを10個、通常は100個近く買ってようやっと手に入る高級品だった。
幾つも並んでいたから、私のルチル原石のイメージは長い間コレだったのだ。

この手のルチルはその後、見かけていない。
大抵は他の鉱物と共生している。
ルチルクォーツならばいくら掘っても出てくる。
しかし、ルチルの原石はやはり、少ない。
ルチルは鉱物だといわれても、具体的なイメージが出てこないのは致命的。

ルチルクォーツのご利益が凝縮されて出来た、半端なく凄い石のはずなのに、どうして誰も探さないんだろう。
トルマリンやアクチノライトより珍しくて、こんなに美しいのに。
わかってる。
大半の人は、そんなことどうでもいいのだ。
客層をみればわかる。
ルチルクォーツをご購入されたお客様の声は、たぶんこんな感じだろう。

「スロットで負け続け、ますます借金が増えていきます」(Aさん/千葉県)
「ロレックスより高かったのに質屋が取らんぞゴラ」(Bさん/大阪府)
「幸せになれないのは浄化の仕方に問題があるのでしょうか」(Cさん/福岡県)
「ブラックルチルって偽物なんですか?」(Dさん/北海道)
「ヒーラーになれないんですけど!」(Eさん/東京都)
「買いすぎて自己破産しました」(Fさん/愛知県)


パワーストーン・ルチルクォーツの効能は、以上である。


約10mm  数点

2011/12/13

チタニアダイヤ


チタニアダイヤ/合成ルチル
Titania Diamond/Rutile
Moscow, Russia



1940年代にダイヤモンドの代用品として登場したものの、ダイヤモンドよりも美しかったがために消えていった幻の宝石。
ダイヤモンドの極めて高い屈折率や分散(輝き)を再現すべく開発された。
しかし、その輝きはダイヤモンドを圧倒しており、むしろ過剰であって、品位に欠けるという声も聞かれるようになる。
数年後には、より自然な輝きと色味を持つチタン酸ストロンチウムが主流となった。
今でいうキュービックジルコニアのような存在。

ヴィンテージの宝石をコレクションに加える人は多い。
中には人工石も含まれる。
人工石というとアヤシゲな感じがするかもしれない。
かつてまだ技術のない時代、本物の宝石を再現するにはそれなりの研究や人手、資金が必要だった。
ヴィンテージであれば価値がつき、コレクションの対象となる。
このチタニアダイヤもそう。
ルチル等のチタン系鉱物から精製されたというこの石、希少石を扱う宝石店では取り扱いがあり、人気商品として定着している。
少し前にブームになった(?)ウランガラスもそうだし、合成ルビー、合成水晶などはヴィンテージのみならず、現在も製造され、工業用として幅広く活躍している。
中にはシベリアンブルークォーツなど、ヒーリングストーンとして価値を与えられた人工石も。

池袋ショーで購入した、青いチタニアダイア。
合成ルチルとして売られていた淡いイエローの石を見ていたら、青もあるという話になった。
そんなもの見たことがなかった。
翌日わざわざ持ってきていただいた。

一見アクアマリンのよう。
光の角度を変えるとギラギラとファイヤー(輝き)が放たれ、鮮烈な虹が浮かぶ。
ダイヤモンドとは異なり、硬度が6しかない(ダイヤモンドは10)ため、年代によるスレやカケがみられる。
また、当時の感覚なのかもしれないが、5ct超えの大きさ。
アクセサリーに使うにはでかすぎる。
相場がわからないのでお買い得だったかどうかはわからない。
初期にロシアで作られたヴィンテージの合成ルチルで鑑定済み、色合いの原因までは鑑定していないとのこと。

池袋ショーが終わり、宿でくつろいでいる。
サンクトペテルブルグから来た、このチタニアブルーダイアに興味を示した人がいた。
彼とは、初日に携帯の話し声と深夜のPCの照明が発端となり、関係が悪化していた。
名前を聞くまでわからなかった。
父親がロシア人なのだそうだ。

彼は一度も父親の故郷を訪れていないという。
ウクライナとの国境近くに位置するその街は、チェルノブイリ原発事故の被害に遭っている。
おそらく、彼が生まれた直後だろう。
隣町では多くの死者が出ている。
彼はもうすぐロシアに発つ。
日本とソビエト連邦の残したもの。
その両方を背負う彼の眼に映るのは何か。


5.05ct

2011/12/10

オレンジルチル


オレンジルチル
Orange Rutilated Quartz
Cotovelo Mine, Sertanejo, Bahia, Brazil



ルチルクォーツには様々なカラー・バリエーションがある。
写真のラフカットは、オレンジルチルと呼ばれている。
明るいオレンジ・カラーの針状インクルージョンが、くっきりと入っているのが特徴。
内包されているのは、ブルールチル(トルマリン)とは違い、鉱物学上のルチル(金紅石)のはず…なのだが、真偽のほどはわからない。
というのも、このオレンジルチル、数が極めて少なく、データが殆ど残っていないのである。

ゴールデン・オレンジ・ルチレイテッドクォーツ。
2006年にブラジルのコトビロ鉱山から250kgのみ産出、その後絶産したといわれている。
現在もわずかに出回っているが、原石など産地の特定できるものばかり。
当時はルチルクォーツがレアストーンになるなど、思いもしなかった。
なお、現在市場に流通しているオレンジルチルのビーズは、淡いイエローゴールド若しくはオレンジブラウンのルチルクォーツ。
コトビロ鉱山のオレンジルチルとは対称的に、極細の針が密集していることが多い。
このところ流通しているオレンジルチルのビーズに、頻繁にキャッツアイがみられるのはそのためか。

写真のオレンジルチルは、数年前のミネラルショーで、白人のディーラーがサンプルとして展示していたラフカット。
無理を言って何周目かでようやく譲ってもらった。
売り物は高すぎて買えなかったのだ。
コトビロ鉱山産のオレンジルチルが貴重品だとは知らなかったから、相当値切ってしまった記憶がある。
オッサンの苦笑いを今でも覚えている。
消えていくと言われながら残っている鉱物が多い中、人知れず消えてゆく鉱物も少なからず存在したということなんだろう。

金運、仕事運、勝負運をアップさせ、成功を勝ち取ることができるというルチルクォーツ。
夢を叶えるパワーストーンとして広く知られており、現在も人気は高い。
特にオレンジルチルは凄いらしい。
億万長者セレブ御用達。
とにかくパワーが半端ないとされておる。
持つ人を選び、自発的に上昇しようとしている人や、強い運気を感じる人の所に行こうとするという。

どうして私のところに来たのか。
まったくもって、疑問である。


コトビロ鉱山の資料を探していたらたどりついたサイト。
彼らが発見者?
http://www.minec.com.br/arq_news/0606.htm


60×31×16mm  25.25g

2011/08/19

ブルールチル


ブルールチル
Tourmalinated Quartz
Jenipapo, Minas Gerais, Brazil



インディゴライト(ブルートルマリン)の藍色の針を内包する水晶。
ブルークォーツ、インディゴライト入り水晶、インディゴライト・イン・クォーツ、トルマリネイテッド・クォーツ、青針水晶などと呼ばれている。

現在、パワーストーンとして定着している「ブルールチル」の名は愛称。
皆様もご存知かと思うが、ルチルは鉱物名であり、青いルチルは存在しない(→ルチルの原石についての考察)。
ルチルクォーツの知名度が上がりすぎたために、水晶に含まれる針状インクルージョンを、総じてルチルと呼ぶようになった。
流通し始めた当初は、「ブルールチル」という呼び名は鉱物学的に誤りであるとの批判が相次いだ。
ここで今一度、ブルールチルという存在の意味について考えてみたい。

本文下の写真にあるビーズは、手持ちのブルールチル。
ごく初期に出回ったもので、先日確認したら、予想以上に手元に残っていた。
撮影のさい光源の関係で、一部に色ムラが出てしまったが、実物はきわめて透明度の高い綺麗なビーズ。
まだ販売されているのを見たことがない段階で決断を迫られ、私なりに賭けに出た。

メチャクチャ売れた。
必死すぎるくらい売れた。
現在、まだ半連以上残っているということは、途中からどうでもよくなったんであろうと思われる。
数が少ないために、当初枯渇は時間の問題だといわれていた。
しかし現在もなお、ブルールチルのブレスは人気商品として定着している。

写真の石は、ブルークォーツとして今年購入した。
藍色のインディゴライトの針が内包された、いわばビーズに加工される前の原石。
こうした標本の流通が増えており、相場は下落している模様。
こちらのエレスチャル状結晶のほか、エッチングの入ったもの(蝕像水晶)、なぜか加工用大原石も格安で販売されていたので購入した。
ブレスには、それらの原石の100倍近い値段が付いている。
なんと、ホームレスの行き交う大阪市N成区の違法露店でも、ブルールチルが売れ筋だというからたいしたものだ。
白濁した、青い針も満足に見えない玉を使ったブレスでさえ、いいお値段で販売されている。
あれはさすがにどうかと思う。
また、アクチノライトを内包した青緑色や青灰色の水晶もブルールチルとして扱われているようだが、原価が全く違うのだから、一緒にするべきではない。
では、なぜブレスと原石の評価に、ここまで差が開いてしまったのだろう。

ルチルクォーツが爆発的ヒットを飛ばしたのを覚えておられるだろうか。
誰もがルチルのブレスを手に入れた。
ゴールド・シルバーカラーのルチルだけでは、いずれ飽きられてしまうから、先手を打たなければ折角の市場が台無しになってしまう。
そこで、ユニクロの如く、さまざまなカラーのルチルを取り揃え、幅広い層にアピールしてしまおうとする声があがった(想像)。

ゴールド・シルバーに続くのは、ブラックルチル、グリーンルチル、レッドルチル、ホワイトルチル。
加えてやや入手の難しいプラチナルチル、オレンジルチルなど。
最後に最も入手困難な激レアカラー、ブルールチルをプレミア価格にて販売。
消費者は誰よりも素晴らしいブレスを手に入れるため、躍起になる。
ルチルで金運UPを期待するのはもう時代遅れ?

そんなわけで、ルチルじゃなくて!トルマリンとかアンフィボールとかだ!などと騒いでいた標本業界は、パワーストーン業界に遅れを取ってしまった。
価格の暴落の意味するところ、それは石に対するこだわりが過ぎた結果ではないだろうか。
めちゃくちゃ適当な推測なので、本気にしないでいただきたい。

ブルールチル、若しくはインディゴライト入り水晶。
どちらの表記のショップで買い求めるかについては、目的によって選び分けたい。
幸せになれるのなら死んでもいいというあなたは前者、石さえあれば(以下同文)後者がおすすめだ。




40×23×21mm  22.18g

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What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?