ラベル ラブラドライト の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル ラブラドライト の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2012/06/05

ムーンストーン


ムーンストーン Moon Stone
Tamil Nadu, India



昨夜、月蝕の話題が出たばかりなので、今日は月にまつわるパワーストーンを取り上げようと思う。
ムーンクォーツではなく本家・ムーンストーン。
ムーンストーンの中でも、ブルーのシラー(輝き)が浮かび上がるものはブルームーンストーンと呼ばれ、価値が高いとされる。
多くはカットされ、宝石やビーズとなって流通している。
写真は、意外に珍しい、ブルームーンストーンの原石。

この原石をいつどこで購入したのかについては覚えていない。
産地と名前のメモが入っていなかったら、見落としていたかもしれない。
ムーンストーンのシラーを楽しむには、研磨加工が必要。
この標本も、結晶の一面がカットされている…はずだったのだが、どうも天然結晶のまま加工を免れている。
母岩のうえに付いた原石が薄いため、光を透しやすいのが原因だろうか。
オレンジを帯びたブルーの炎が結晶全体を包むさまを昼間から拝めるとは思わなかった。
実際の月と同様、原石の場合、太陽光でそれを見ることはなかなか難しい。

ロイヤルブルームーンストーン、レインボームーンストーン。
鉱物としては非常にわかりにくい。
ムーンストーンの呼び名は、特定の鉱物を指す言葉ではない。
うっすらとブルーの浮かぶ鉱物名を挙げていくと、きりがないほどにその種類は多く、特定が難しいために混乱を招いている。
ムーンストーンと呼ばれる石の正体は、サニディン、アノーソクレース、ラブラドライト
いずれも長石に類するが、その中のどれか一つを指定せよといわれると、専門家も言葉に詰まってしまうようである。

ムーンストーンの偽物 "ペリステライト" という鉱物も存在する。
どこからか、それはムーンストーンじゃなくてペリステライトだ!という声があがり、大騒ぎになったのも懐かしい。
俗にいわれる「戦慄のムーンストーン・えちごや騒動」である(無い)。
しかしながらペリステライトもまた、長石の一種である。
詳細について記すと長文になってしまうため、専門書を参照していただきたい。

パワーストーンは大衆文化、鉱物標本は学問に近いものと捉えている。
議論は堂々巡りで、建設的とはいえぬ。
子供が鉱物名を誤解していたとして、それを教えたところでなんになろう。
元来、ムーンストーンは白かったと思っている。
もしそれが黒ければ、「冥王星(※追記)」「ブラックホール」等、別の名前で定着していたはずだ。
月にまつわる、神秘的な伝説が数多く存在するように。

※追記:冥王星の名を冠した元素はプルトニウムである(→詳細:テルル)。

日本では、月はたいそう縁起のよいものとして、好まれてきた歴史がある。
サンストーンよりムーンストーンのほうが人気が高いのも、そのせいかもしれない。
例えば、月にはうさぎが棲んでいるという伝説がある。
満月には白うさぎが餅をつく、ということになっている。
月にうさぎのいる国は、意外に多いようだ。
直接聞いただけなので、文化的には異なるのかもしれないが、少なくともインド、西ドイツの方から直接「自分の国も月にうさぎがいる」と聞いたことがある。


ここではジャータカ(仏教説話)に出てくるうさぎの物語が起源となって、月にうさぎがいるという伝説が生まれた旨、記されている。
ジャータカは私が物心ついたとき、既に私の心の中にあった。
兎本生と呼ばれるその物語は、私がうさぎに興味を持ち、インドに行くきっかけともなった思い入れのある説話。
インド、日本については、ジャータカが月のうさぎの言い伝えの由来になったとしている。
いっぽうで、世界には月光が狂気をもたらすとされ、忌み嫌う土地があると聞く。
月の影響で恐ろしい狼に変身する人もいた気がする。
一般に、欧米人は月を好まないとされている。
調べてみると発祥はどうも、ドイツ。
月は悪魔や魔女の象徴として描かれているという(ドイツは魔女狩りがもっとも盛んだった国)。
実際、欧米ではムーンストーンに対し、邪悪で背徳的な意味合いを与えることも少なくないようである。
うさぎがいるんじゃなかったのか。
ドイツの夜空にうさぎがいると教えてくれたのは、西ドイツの学者の息子。
父の跡を追い研究者を目指していた青年だ。
彼の性格や風貌は、オカルト的寓話とは全く結びつかないし、とくに仏教徒というわけでもなかったから、不思議なのだ。
欧州のオカルトは根が深い。
なぜドイツに両極端な二つの月のイメージが並存するのかについて、これ以上の言及は控える。

話を戻そう。
ムーンストーンは鉱物名ではない。
サニディンだったりアノーソクレースだったり、時々ラブラドライトやペリステライトであったりもする。

参考:ペリステライトとムーンストーン、ラブラドライト
http://www.cgl.co.jp/latest_jewel/gemmy/128/index.html

上記の3つの鉱物は、いずれも長石の一種。
宝石の場合は区別をするべきだが、大量生産が常であり、また消耗品でもあるパワーストーンの場合、かえって混乱の原因になりそう。
写真の石はインド産だから、ラブラドライトの可能性が高い。
しかしながら、産地からはペリステライトも出ている。
ムーンストーンより先は、鑑定するしかない。
そこまでして何になろう。
正式なムーンストーンとされるサニディンのすべてが、月の輝きを想わせるとは限らないのだから。

論争に決着が着いたかどうかはわからない。
ペリステライトはブルームーンストーンの偽物というのは言いすぎであろう。
ムーンストーンと呼ばれるのはひとつの鉱物ではない。
鉱物が違えば問題も起きるから、パワーストーンにもある程度の定義は必要だ。
ただ、宝石の場合はともかく、産地すら明らかにされない消耗品としてのパワーストーンに、細かな決め事が必要だろうか。

以下、素人の意見。
パワーストーンに限っては、青白いシラーの出る長石類をムーンストーンに統一してしまおう。
成分でなく外観や質を基準にし、規定の範囲内でムーンストーンの呼称を使ってしまおう。
いっぽう、お馴染みのオレンジムーン、ダークグレームーンなどについては、ムーンストーンとしての扱いは甚だ疑問であり、月のビジュアルとして考えると、どうにも不吉であり、不気味である。
ムーンストーンを邪悪な石にしてはいけない。
別途、名称の考案を望む。


47×30×12mm  19.15g

2012/01/19

アンデシン/ラブラドライト


ラブラドライト Labradrite
産地不明



透明感のある赤にグリーンが混ざりこみ、所々イエローに透けるさまが、手の込んだ抽象画を思わせる。
2009年頃に出回った、中国産のアンデシンにそっくりだが、こちらはアフリカのコンゴ産出、鑑定の結果ラブラドライトと判明したらしい。
実は、宝石質のアンデシンはまだ持っていなかった。
以前から気になってはいたのだが、高すぎて買えなかった。
昨年末、ようやく池袋ショーで購入したのがこれ(表記はラブラドライト)。

2002年にコンゴのニイラゴンゴ火山で発見されたというこの石は当初、ラブラドライトかアンデシンかの議論で盛り上がったという。
宝石質のアンデシンは非常に稀で、そうとわかったときは誰もが驚いたそうだ。
アンデシンはナトリウム:カルシウム=6:4、ラブラドライトはナトリウム:カルシウム=4:6と成分は極めて近いため、この石は微妙な差異によりラブラドライトと判定されたのだろう。
見た目は中国・内モンゴル産のアンデシンと同じで、素人には区別がつかない。
価格は1カラット越えで2000円弱(酷い値切り方をしたのでわからない)。
鮮やかなレッド、グリーンの発色は、銅のインクルージョンによるものらしい。
ラブラドライトだから特価なのだろう思い、購入した。

実は、コンゴやチベットからアンデシンが産出するというのは知らなかった。
ずっとモンゴルのあたりから来るものと思い込んでいた。
お店の人に尋ねると、わからないという。
昨今のレッドアンデシンのほとんどはビーズで流通しており、原石標本を見かける機会がなかったため、見落としていた。
ただ、コンゴからの産出は僅かな量に過ぎず、現在は産出していない貴重品のようである。
なぜここまで値下がりしたのだろう。
ニイラゴンゴ火山における産状を、具体的に示す資料がないのも不可解ではあった。

つい先ほど、それに関連するとみられる記述を発見した。
真偽については触れないが、実に興味深い推論が展開されている。

コンゴ産アンデシンは中国の内モンゴル産、赤や緑の色合いは人工処理による発色
http://www15.plala.or.jp/gemuseum/gemus-sustn.htm

ここでは内モンゴル産の黄褐色のアンデシンが、処理により赤や緑となり、コンゴ産・チベット産として流通した旨説明されている。
中国の研究者の技術情報が流出したようである。
異なる三つの産地から発見されたにも関わらず、組成や特性がほぼ同じであることが判明し、改めて調査が行われたらしい。
処理した原石を各鉱山にばら撒いたものとする大胆な仮説は非常に興味深い。
なぜなら、私も同じことを考えていたからだ。
では一昨年、スピ系のイベントでアンデシンのブレスレットのみ販売していた、無口なクリスタルヒーラー(?)は偽物だったということになるのだろうか。

このところ人工宝石に興味が向いていたので、お手ごろ価格で美しい石が購入できて満足している。
おそらく中国産だと考えられるが、コンゴ産と明記されていたため、産地は不明としておきたい。
いわゆるレッドアンデシンは、現在も数万程度で販売されている。
タイ経由で仕入れるなどして、販売者に悪気はないのだとするなら、この件に関して大声で文句を言う気にはなれない。
なお、中国では2008年北京オリンピックのさい、公式宝石/国家の象徴としてその赤いアンデシンを掲げ、開催を祝ったといわれている。



※この件に関する研究論文が幾つかあり、いずれも合成石という結果が出ていました。また、商業サイトにおける鉱山の写真は、素人が見ても不自然で、強い違和感を覚えます。ディーラーの良心を信じたいものです。(12/08/05 追記)


1.06ct

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?