2012/10/26

レピドクロサイト入りアメジスト


レピドクロサイト入りアメジスト
Amethyst/w Lepidocrocite Inclusions
Rio Grande do Sul, Brazil



鉱物を集め始めたばかりの頃購入したアメジスト。
実家のお宝箱の中から出てきたので、なんとなしに撮影した。
フラワーアメジストが産することで有名な、ブラジルのリオグランデ・ド・スル州からやってきた。
母岩のない、全体が結晶した色濃いアメジストのクラスターのあちこちに、ゴールドのレピドクロサイトが輝いている。
詳しいことはわからないが、まるで宙に浮いた状態で成長したかのよう。
ブラジル産のアメジストは久しく買っていない。
スーパーセブンはともかく、真っ先に浮かぶのは処分コーナーに投げ込まれている凡庸な紫のクラスターくらいだ。
メモがなければマダガスカル産インド産と勘違いしていたかもしれない。
実際、今ではほとんど見かけない。
まるで、咲き誇る花のよう。

先日、鉱物に詳しい方のお話を伺う機会があった。
フラワーアメジストの話題が出た。
レースのように薄く繊細な結晶が放射状に広がった、独特の姿をしたアメジストを、フラワーアメジストと呼んでいる。
一度撮影中に落して割ったこともある程デリケートなので、取扱いには注意が必要である。
その時のショックで、フラワーアメジストを頑なに避けていた私のハートも、けっこうデリケートだと自分では思っている。

会話の合間にふと思い出したのが、こちらのレピドクロサイト入りアメジスト。
フラワーアメジストとは呼ばないが、まるで花のように見える。
鉱物に関しては全くの無知だった私がこの標本を購入した理由に他ならない。
当時は鉱物に金をかけるという発想などなかったから、手頃な価格だったはず。
ガラスのような透明感、濃厚な色合い、見事な形状。
さらに、茶色のゲーサイトではなくゴールドのレピドクロサイト・インクルージョンなど、今となっては得がたい貴重な標本である。
当時はフラワーアメジストなんて知らなかった。
今なら割れてしまったものも含め、いくつか手持ちがある。
だけど、私にとってのフラワーアメジストは多分、これなんだと思う。
人の数だけフラワーアメジストがあっていい。

水晶には滅多に興味を示さないアメリカのミネラルハンターたちにこの写真を見せたら、思わぬ反響があった。
アメリカではクリスタルヒーラーを中心に好まれ、収集家には人気の無い水晶。
予想外だった。
日本では、水晶はひとつのジャンルとして確立している。
いっぽうで、水晶をメインに集めているアメリカ人にはまだ出会っていない。
そんな彼らにも、国境を超えて伝わった想いがある。




51×32×24mm  34.70g

2012/10/23

スコロライト


スコロライト
Scorolite Quartz
Aracuai, Minas Gerias, Brazil



秋の京都ミネラルショー初日。
私は宝石ブースで、想定外の事態に頭を抱えていた。
その日買い物をする予定はなく、財布には交通費しか入っていなかった。
にも関わらず、かねてから気になっていた石が目の前に輝いているのである。

ピンクファイヤーアメジストとされるその石は、以前ネットで見かけて気になっていたスコロライトそのものであった。
写真で見ると、オパライト(オパレッセンスの現れるアクリル製ビーズ)そっくり。
人工石を疑ってしまう。
しかし、現物を見た限り、天然のクォーツに間違いない。
なめらかで神秘的なミルキーパープルの色合い。
角度を変えるとピンクやオレンジのファイアが煌くさまは、ピンクファイヤークォーツとはまた違った、新たな宝石の可能性を感じさせた。
ただ、その場でスコロライトの名が出てこなかった。
新しい宝石の名称が安定するには時間がかかる。
両者が同じものかどうか訊ねようにも、スリランカ人である店主に日本の宝石事情を伝えるのは不可能であった。

店主の話では、産地はブラジルのミナス・ジェライス州。
ブルートパーズの産地として知られるアラスアイから、わずかに発見されたという(追記あり)。
ファイアがよく見えるよう大きめにカットしてあるとのお話であった。
写真では到底味わえない驚きが詰まっている。
特に水晶を集めているわけではないが、これは外せない。
しかしながら、財布には千円札と、両替できないまま残っていた100ドル札がそれぞれ一枚のみ。
祝日でATMは閉まっている。
店主さんはドル札でも構わないと仰り、おつりは日本円で出してくださった。
熱心な仏教徒である彼の温かな心に触れ、美しい宝石以上に価値ある時間を過ごせたことに、心から感謝している。

帰宅後、調べてみた。
ピンクファイヤーアメジストとスコロライトは、同じものであると思われる。
同じように宝石にカットされたものが高額で販売されている。
いっぽう、小さなビーズとなって流通しているケースも数多くみられた。
ルースや原石であれば外観や重みでその真偽はある程度わかるが、小さなビーズの場合、それがオパライト等の人工物であっても判別できない。
事実、海外ではスコロライトに対する激しい論争も起きているようである。
人工石だと明言しているところさえある。
かつてヒマラヤブルームーンクォーツを知ったとき、私が真っ先に原石を探したのは、そうした理由からだった。

採れる量はわずかだというから、スコロライトの名にあやかって人工石を流したところもあったのだろうと推測している。
このルースに関しては、天然水晶に間違いない。
ただし、ヒーリングストーンとして流通しているビーズについては、リスクが伴うといわざるを得ない。
本来見えるはずのファイヤを確認するのも難しいだろう。
ブルーやパープル、ピンク、オレンジなどさまざまな色合いを楽しめる興味深い宝石、スコロライト。
実際に手にとって、その美しさを確認してからの購入をお薦めしたい。
自分で言うのもなんだが、写真ではオパライトにしか見えない。


16×12mm  8.46ct


追記:この石が、2度にわたるアメジストの加熱によって得られるものであるとの貴重な情報をいただきました。確かに、一見ローズクォーツ。アメジストに分類されるのは奇妙です。人工石ではありませんが、処理石を前提に購入し、その美しさを楽しむべきものといえます。こちらのカット石は3,500円での購入ですが、販売価格がこれを大幅に上回る場合は注意が必要です。また、不透明な白は失敗作とのこと。

以上、石をこよなく愛するKさまからアドバイスいただきました。本文に訂正を加えず、ここで注意を喚起したいと思います。また、海外で問題になっている人工石についても、混在の可能性が考えられますので、十分に警戒なさってください。Kさま、いつもありがとうございます!



2012/10/21

ヌーマイト


ヌーマイト Nuummite
Godthabsfjnord, Nuuk, Greenland



今回オークションに参加させていただいて、奇妙な印象を受けた石がいくつかある。
思わぬ事故で作業が遅れてしまっているので、簡潔にまとめたい。
その石のひとつがヌーマイト。
「グリーランドから発見された、地球上で最も古い石」として各方面で話題になり、人気のある鉱物のひとつである。
クリスタルヒーリングにおいては特に重視され、強い保護の石として知られている。
ある方へ石を贈ろうと、偶然手に取ったジュディ・ホール氏の著書。
開いたページにヌーマイトがあった。
早速この石について調べたところ、ある疑問が浮かび上がったので報告したい。

本来ヌーマイトは滅多に輝かず、一部がキラリと光るもの。
ところが、このところ流通しているヌーマイトは、全体が豪華絢爛に輝いている。
また、華やかさに反して、冷たい印象を受ける。
ヌーマイトの放つ光は温かなイメージだったはず。
画像から検索してみたところ、明らかに二つのパターンがみられた。
ひとつはゴールデンレッド~イエローの輝き。
もうひとつはシルバーブルー~グリーンの輝き。

以前、暖色系と寒色系の違いについて記した(→詳細はこちら)が、そのトリックがここでも用いられていた様子。
なんとWikipediaにもこの件が取り上げられており、簡潔にまとめられているので引用させていただく。

黒い地に、パラパラと散らばる玉虫色の細い破片(研磨したアルベゾン閃石に見られる針の集合のようなものではない)が光る。光り方が似ているところから、アルベゾン閃石と間違えられやすい。」(以上wikipediaより引用)

新しく発見されたという中国・内モンゴル産ヌーマイト。
シルバーブルーの輝きが放射状に広がっている。
外観や特徴は内モンゴル産アルベゾン閃石に同じである。
どちらも珍しいが、ヌーマイトはかなりの希少石であり、決して身近な存在ではなかったはずだ。
また、色相から受けるインスピレーションは全く異なるはずなのに、なぜ両者が混同されているのだろう。
アルベゾン閃石をヌーマイトとして取り入れ、流通を増やしたのだとしたら、高級品だけに衝撃は大きい。
中には画像を編集して石をむりやり赤く見せているところまであるが、大丈夫なのか。

ヌーマイトに関して、私の手持ちにアルベゾン閃石は無かった。(→あったが若干異なっていた。こちら
私が最初に手に入れたヌーマイトが「本物」であったからこそ違和感を覚えたのは確か。
尊敬する大先輩であり、お世話になっている日本のディーラーさんがツーソンで仕入れられたものだった。
過去にその方から譲っていただいた思い出のヌーマイトの写真を下に掲載した。
氏には心から感謝し、今後のご活躍をお祈り申し上げる。



左はヌーマイトの原石、右は初めて手にした思い出のヌーマイト


14×10×8mm

2012/10/19

ザギマウンテンクォーツ/消えたアイスデビル


ザギマウンテンクォーツ
Zagi Mountain Quartz
Zagi Mountain, Mulla Ghori, Khyber Agency, FATA, Pakistan



本当ならここで、美しいアイスデビル(→考察はこちら)をご紹介できるはずだった。
ある方のご厚意で手元にやってきたアイスデビル。
透明度の高い塊状の水晶で、悪魔的なイメージは全く感じられなかった。
切断面が著しいため、鉱物標本としての価値はないが、癒しには成りうるだろう。
ただ、約3000円という市販価格はやや高額であり、300~500円程度が妥当なのではないかというのが素直な感想だった。
想像するに、加工した水晶の残りであろう。
ヒーリングストーンとしては、同じマダガスカル産出のジラソルのほうが美しいと感じる。

天然石に同じものは存在しない。
お返しするさいに何かあってはと、封筒に入れて倉庫の奥にしまった。
翌日、撮影のため封筒を手に取ったら、中身は空っぽになっていた。
その間たった一日。
家族は旅行中で留守だった。
ご厚意を裏切るようなかたちになってしまったことを情けなく、恥ずかしく思う。

ここ数日、強い違和感が続いていた。
一週間前、二階の窓めがけて飛んできた漆黒の虫事件(前回の記事参照)以降、有り得ないようなトラブルが次々に起きていた。
最も衝撃的だったのは肋骨損傷で、あと一秒遅ければ死んでいたかもしれない。
実は肋骨損傷に関わるPTSDが、私が障害者として生きることになるきっかけだった。
まだ治っていないことをつきつけられた。
今回は事故に過ぎないのに、精神的ダメージは思ったより大きかった。
あまりに災難が続くため、遺書まで書いたほどである。

翌朝、アイスデビルは消えてしまった。
むりやりで申し訳ないのだが、どことなく外観の似たこの石をご紹介させていただこうと思う。
ザギマウンテンから産出したという、ゴールドに輝く水晶。
実に美しい。
鉄分による発色だろうか。
こんなものが眠っていたとは、ザギの魅力は計り知れない。

ザギマウンテンクォーツの流通は急激に増え、さまざまなバリエーションを見かけるようになった。
このゴールドの他にも、青い針の入ったザギマウンテンクォーツが見つかっている(→せっかくなので出品しました)。
いわゆるブルールチルにそっくり。
インディゴライト入りと紹介しているところもある。
ザギからはショール(ブラックトルマリン)の産出記録があるが、インディゴライトについては記録がない。
可能性があるとしたらアクチノライトではないかと思うのだが、見た目から判別するのは困難であった。

参考)ザギマウンテンは聖地ではなかった?

http://usakoff.blogspot.com/2012/08/27.html


ザギマウンテンは広い。
こんな珍品があったことに驚かされる。
私を助けてくれたのかもしれない。
或いはアイスデビルは、無意識に眠る心の闇を明らかにするクリスタルなのかもしれない。
そう思いながら、消えてしまったアイスデビルを必死で探している。


43×32×25mm  31.57g

2012/10/12

バライト(&セレスタイト)


ブルーバライト
Blue Baryte
Sterling, Weld Co., Colorado, USA



昨夜、自室2階の窓から、世界中で恐れられているとされる漆黒の虫が飛来した。
ゴキブリというやつである。
私は半ばパニックになり、その後の記憶がない。
朝になったら消えていたから、夢だったのかもしれない。
その直前、久しく連絡を取っていない知人から電話が入り喜んだのもつかの間、私が関連した極めて深刻なトラブルが起きていることがわかった。
前回の記事と関係があるのだとしたら、今日は天使の話題で反省する必要がある。

写真は見事に結晶した青いバライト(重晶石)。
まるでセレスタイト(天青石)のようだが、セレスタイトではない。
バライトは砂漠の薔薇/デザートローズ(※注)を形成する鉱物である。
砂漠の薔薇の赤褐色の色合いは、砂漠の砂に由来する。

※注)砂漠の薔薇には二種類ある。赤褐色の場合はバライト由来。デリケートなホワイトの結晶であれば、セレナイト由来。バライトとセレナイト、セレスタイトは混同される傾向にある。

バライトの結晶は珍しい。
なかなか見かける機会がなかったが、先日の春のミネラルショーでブルーバライトが販売されているのをみかけたので、いくらか流出があったのかもしれない。
色はブルーのほか、無色透明~白、イエロー、オレンジ、ブラウンなど。
冒頭にあげたセレスタイトは、バライトの成分バリウムがストロンチウムに置き換わったもの。
両者はしばしば混在し、混同されることも多いという。
また、バライトの青い色合いは、セレスタイトから生じる放射線に由来するといわれている。
つまり、処理石が作れてしまう。
現時点では需要と供給のバランスが取れているから、さほど問題にはなっていない。
私は未見であるが、グリーンのバライトは処理のおそれがあるという。

バライトは世界各地から発見され、工業用の素材として広く利用されている。
白い○○○が出ることで有名な検査用のバリウムは、バライトの粉末から出来ている。
いっぽう、結晶化したバライトの透明石は、その多彩な造形美に魅せられた収集家たちに古くから愛されてきた。
そのためオールドコレクションが数多く存在し、骨董品のような扱いを受けている。
この標本も、アメリカの有名なコレクターからの流出品で、運よく入手できた。
出処はスイス産/究極のエッチングクォーツを激安でお譲りいただいた世界的に有名な鉱物店。
代金を払っていないにも関わらず、ある日私のもとにやってきた。
驚いて問い合わせたが、どちらでもいいようなことを言われ、支払い方法を告げられることなく今に至る。
毎度のことながら、世界規模の鉱物店は太っ腹だ。
こんな見事なものに対価を支払わないというのは心が痛む。
かの収集家が天国から託してくださったのだろうと私は考えている。
非常に都合の良い解釈である。

バライトは見た目に反し、脆く破損しやすい。
そのため、加工には向かないとされている。
透明石はコレクション用にカットされることもあるが、数は少なく貴重品である。
パワーストーンとしての知名度がないのはそのためかもしれない。
このところ世界的に注目を集めている、水晶に載った美しいイエローバライト(中国産/写真1/写真2)。
春のオークションで紹介させていただいたところ、カルサイトやアパタイトとの混乱がおきている方が少なからずおられた。
知名度のなさも原因と思われるため、ここに改めて記させていただこうと思い立った。

バライトの仲間であるセレスタイトのほうは、パワーストーンとして広く認知されている。
硬度は3と、加工される鉱物の中では最ももろい部類に入る。
60年代にマダガスカルから大量に発見されてのち、高価だったセレスタイトの価値は下落、多くが加工にまわされたとみられる。

蛇足になるが、セレスタイトには硬度以外にも、様々な危険要素が含まれている。
アクセサリーとしてはおすすめできない。
当初はビーズなど考えられないという声も聞かれただけに、加工技術の進歩に危機感を抱いている。
セレスタイトのブレス愛用者のかたには、以下の要注意事項をお伝えしておかねばなるまい。
天使の石、セレスタイト。
トイレ掃除のさい天使がみえるようなことがあれば、それはあなたが天国に導かれているという警告のメッセージであるからして、すみやかに避難のうえ、換気を行っていただきたい。
セレスタイトは、天使のメッセージを運ぶ天国のクリスタルであるといわれている。




65×30×23mm  35.61g

2012/10/08

アイスデビル


キャッツアイ
Synthetic Cats Eye
産地/年代不明



アンティークの重厚感あふれるペンダント。
ムーンストーン・キャッツアイを模して、ヨーロッパで製作されたものと伺っている。
戦後すぐ、或いはそれ以前の作品ともみえる華やかで煌びやかなデザイン。
時代遅れの感はあるが、美しい。

キャッツアイといえば、人工キャッツアイの開発者である飯盛里安博士。
ヴィクトリアストーンという宝石を世に遺した偉大なる研究者である。
驚くべきことに、ヴィクトリアストーンと銘打って、廉価な赤いキャッツアイにこのブログの解説を添え、オークションで販売された人物が現れた(プライバシーの観点から、記事へのリンクは控える)。
ソースを明示してくださったおかげで、その事実がわかった。
心から感謝申し上げる。
ただ、偽物に自分の解説を使われては、悲しくてやりきれない。

今回は写真のペンダントではなく、ヴィクトリアストーンがきっかけでその存在を知ったばかりの、ある石の謎に迫ってみたい。

富を幸福と位置づけるアジア諸国においては、コンテンツの流用は半ば当然のこと。
中国の擬似ミッキーマウスに代表されるように、著作権に金銭が発生する以上、幸福の妨げになるような権利は避ける必要がある。
貧しい東南アジアの国々においては、事実上、著作権は存在しない。
それを経済的な貧しさとみるか、心の貧しさとみるかは、人それぞれだ。

表現の自由という権利も存在する。
権利のみを主張し義務を怠るのは、誤りとされている。
いっぽうで、両者が相容れない関係なのもまた、現実である。
著作権や肖像権、或いは人権を、自由や幸福追求の権利をもって否定する行為を、正義とみなす向きもある。
そんな世の中にあって、氏がソースを明示してくださったことについて、同じ日本人であることを誇りに思う。
ただ、私は納得していない。
その後、多くの方から貴重な情報やご感想をいただいた。
心ある方から、氏がどうも不審なビジネスに関わっておられるのではないか、というお話を伺った。
事実関係や今回の記事の如何について確認するため、ご本人には何度もお電話を試みた。
現在も連絡は取れずじまいゆえ、私なりに記させていただこうかと思う。

氷の悪魔と呼ばれる水晶があることはご存知であろうか。
欧米のヒーリングストーンを中心に集めておられる方にとっては初耳かもしれない。
氷の悪魔の化身、マダガスカル産アイスデビル。
恥ずかしながら、私自身初耳であって、手持ちはない。
欧米のクリスタルヒーラーを経由して入ってきたなら噂になってもよさそうなものだが、ごく一部で知られるのみだという。
ずいぶん前、マダガスカル産 "アイスクォーツ" という氷のように美しいローズクォーツが流通したが、アイスデビルの価格はその十倍以上。
ごく普通の透明水晶の塊が、軒並み一万円を越えている。
さらに奇妙なことに、このアイスデビル、先の人物が流通、普及に関わっているというのである。

キリスト教の影響下にある欧米で、倫理的にシリアスな意味合いを持つデビル(悪魔)。
善悪を厳しく二分するキリスト教的価値観において、神の対極をなす悪魔が神聖視されるとは、奇妙である。
魔女の名を与えられたウィッチズフィンガークォーツに関しては、クリスタルヒーリングにおける神秘主義的な観点から、高い支持を得ているものと聞く。
アイスデビルもその延長なのだろうか?

宗教的倫理観は、我々が思うほど曖昧なものではない。
私たちは欧米人を真似て「ゴッドブレスユー!」「オーマイゴット!」などと叫んだりする。
ここで用いられる「ゴッド」は神、つまりイエス・キリストのことを指している。
一般に、人に対して「ゴッド」という表現は使わない。
マダガスカルにキリスト教徒が存在し、アイスデビルが現地名であるならば、なにか特別な理由があるはずだ。
しかし、アイスデビルの名の由来に関する、具体的な記述はどこにも見当たらない。

マダガスカルではどのような信仰が一般的なのか、調べてみた。
Wikipediaによると、マダガスカルにおいては、アニミズム信仰(自然等を崇拝する、土着的な信仰)が最も親しまれている様子。
いっぽう、国民の49%がキリスト教徒であるとのこと。
マダガスカルもキリスト教圏に含まれると考えるなら、アイスデビルはおそらく現地名ではない。

キリスト教圏で "デビル" が徹底的に忌み嫌われるわけではない。
子供たちはデビルが大好きだという。
実際、欧米の子供向けテレビゲームに "アイスデビル" という敵キャラクターが登場する。
ただ、アイスデビルの名の由来になったとは考えにくい。

思うにアイスデビルはアジアを経由し、ビジネス目的で日本に大量に輸入された…
ならば、アンダラクリスタル並みの価値を与えられている現状、またその不透明な(或いは呪われた)存在を、放置しておくわけにはいくまい。
ただし、アイスデビルが、かの人物の考案した高波動クリスタルであったとしたら、これ以上の言及は控えなければならない。
多少なりとも関わりを持った人間を責めようなら、憎しみや悲しみが生まれる。
私はアイスデビルの正体を知りたい。
ただ、それだけだ。

実は私は過去に、その人物からいくつか鉱物を購入していた。
ご本人はおそらく、それをたどってこのブログをご覧になったのだろう。
私が氏から購入した鉱物は、全て加熱処理や放射線処理が施されており、切断面が顕著で、コレクションとしての価値は皆無であった。
また、奈良県産として購入したレインボーガーネットは光らなかった。
市町村の規定に従い、処分した。
ご指摘を受けるまで忘れていた。

もしあの赤黒いキャッツアイが飯盛博士の作品であったなら、博士に詫びなければならない。
飯盛博士のご遺族のお名前を出されては、ただうつむくしかない。
私にはあのキャッツアイが時代を超えて輝き続けるとは思えない。
血も滴るアイルデビル。
なんて恐ろしい響きだろう。
あまりの恐怖に、私は空を飛びたい気分である。
氷の悪魔が、暗闇の淵から密やかに微笑んでいる。




出品者様が飯盛博士のご遺族から受け継いだキャッツアイ。
商品解説にはなぜか私のヴィクトリアストーンの記事が。


25×25×7mm(チェーン40cm )144.40g



アイスデビルの正体がわかりました。詳細はこちらからどうぞ。

2012/10/07

フローライト(ワインレッド&オリーブ)


フローライト Fluorite
Pine Canyon Deposit, Westboro Mts., Grant Co., New Mexico, USA



秋のミネラルショーが始まった。
今回は、以前アップした記事を。
フローライトは私がこのところ特に気に入って集めているのだけれど、ショーでもたくさんの素晴らしい標本に出会った。
色合いやその混在の様子、模様、質感、存在感など、それぞれが個性豊かでひとつとして同じものはない。
フローライトで世界一周がしてみたい今日この頃。

花のように結晶した可憐なフローライト(蛍石)。
ワインレッド・カラーの下にはオリーブグリーンが隠れていて、額縁のように枠を成している。
これをゾーニングと呼んでいる。
専門用語はなるべく使いたくない。
なぜなら私にもよくわからないからである。

ゾーニング。
大雑把に言えば、額縁。
結晶内部の色の境目を指して、そう呼んでいる。
写真のようにくっきり色合いが分かれていることもあるし、どちらかというとファントムに近い、ぼんやりとした色彩の帯であったりもする(→同じニューメキシコ産のフローライトにみられるゾーニングの顕著な例)。
蛍石のゾーニングの定義は曖昧で、感覚的に使っている人も多いという印象を受ける。
ファントムとはまた違う。
この標本を語る上でゾーニングの美意識を外すことはできないので、是非とも押さえておきたい。

産地からは、赤紫と黄緑の色合いを基調とするフローライトが発見されている。
多くはクラスター状に成長しており、無数の八面体結晶が発達した刺々しい姿をしている。
この標本とは逆に、オリーブグリーン・カラーが表面を覆っているために、色味に濁りを感じることもある。
赤紫と黄緑は色相環において正反対の位置、補色にあたる。
色の相性としては最も難しい。
補色同士が混ざり合うと、暗く濁った色合いになる。
いっぽう、補色関係にある赤紫と黄緑を並べると、互いの色がより鮮やかに見えるという相乗効果がある。
フローライトだから実現するゾーニングの魔法。
お手持ちのフローライトにも確認できるはずなので、見つけていただきたい。

華やかなフローライトの花が咲いている。
いったい何の花に喩えればよいだろう。
日本の家庭環境に優しいサムネイル・サイズの標本から広がる無限の宇宙。
私はこれを盆栽と名づけたい。


31×22×19mm  12.71g

2012/10/03

アメジストエレスチャル


アメジストエレスチャル
Amethyst Elestial Quartz
Karur, Tamil Nadu, India



以前カボションカットされたものをアップしたが、今回は原石を。
南インド・カルール産出のエレスチャルアメジストである。
スーパーセブンの全盛期、その発色が本来のそれより美しいために、南インド産スーパーセブンとして出回ったことは前回にも記した。
日本に入ってくる段階でほとんどは研磨加工され、ルースや六角柱の置物になってしまっていた。
原石の魅力について語られる機会は、少なかった。

写真は現在も僅かに流通のあるカルール産アメジスト。
世界中から産出するアメジストの中でも、紫の絶妙な色合いにおいては、メキシコのベラクレスアメジストに匹敵する美しさ。
魅力はその色だけではない。
クラスター、エレスチャル、セプタークォーツ、フラワーアメジストに近いもの等々、様々な形態がある。
この標本には白いしっぽのようなものが付いている。
私の手持ちのカルールのアメジストには、なぜかすべてしっぽがついている。
白いしっぽの飛び出した水晶には、他にも見覚えがある。
いずれご紹介したい。

南インドにヒマラヤ山脈があると思っている方は多いようだ。
インドの話題が続き申し訳ないのだが、南インドと北インドでは、気候や街並み、人々の様子、食事の味や言語に至るまで、全く異なっている。
インドの公用語は、英語である。
州によって言語や文字が異なるから、インド人同士でも言葉が通じないことがある。
古くは英国の統治下にあったインド。
年配の方々は、イギリス訛りの英語を使われることが多い。
フェイスブックに "Indian English" というカテゴリがあるように、現在インドで用いられている英語は、インドに独自のアレンジがなされている。
英語を母国語とする英米とは異なり、許容範囲は広い。

先日、南インドとは何ぞや、というお話が出た。
中には南インド=サチャロカ、と認識しておられる方もいらっしゃるご様子。
南インドは私たちが考える以上に広大なのである。
情報としては不十分であるが、いったいどんなところだったか、少しだけ書かせていただこうと思う。

私が一人、南インドに上陸したさい、日本人旅行者は皆無であった。
日本でストーカーに追われ、命の危険を感じた。
インドに行くときは、おそらく生死の選択を迫られたとき。
幼い頃からそう思っていたが、遂にその時が来てしまった。
折りしも一年で最もチケットの取りづらい時期、突然出発を決めたにも関わらず、格安チケットにキャンセルが出たとの知らせを受けた。
十分な用意をする間もなく、私は日本を発つことになった。
インドに到着してすぐムンバイ空港で野宿したのは、そうした事情あってのこと。
安全なはずの日本で死ぬことが、周囲の人々を絶望させ、私は死後もその罪を背負うことになる。
それだけは、避けたかった。
インドに対しては、幼少期から非常に複雑な思いがあった。
私がインドに行くとすれば、人生が終わるときだという予感は、現実になった。

南インドに日本人はいなかった。
ただ、ネパールで知り合ったある日本人が、現在南インドのゴアという土地にいるはず。
その人物に会うことができれば、この絶望的な状況が好転するという一心で、私はゴアへ向かった。
一ヶ月以上に渡って、日本語が全く使えないという状況が続いた。
当初の目的地であったゴアに滞在する白人たちの多くは、開放的すぎて倫理的に無理があった。
ゴアでは性的に厳格なイスラムグループ、社交辞令に終わらない深い内容について話すことのできる地元のインド人と行動した。
あとで知ったのだが、日本人旅行者の集まる場所は、そこから少し離れた場所にあり、閉鎖的コミュニティになってしまっていたようだ。
それがかえって幸いし、私はインドが世界で一番好きになった。
私は長い呪縛から開放されたのだ。

南インドのリゾート地・ゴアには、無数のビーチが存在している。
ガイドの三郎(北島三郎に似ていたので勝手にそう呼んでいた)と友達になり、バイクのガソリン代を出し合って、ゴアにあるあらゆるビーチへ冒険に出かけたのを思い出す。
海沿いを走り、森を抜け、フェリーで川を渡り、椰子の木をかすめてどこまでも走る。
一般の旅行者が訪れない遠いビーチでは、高齢のヒッピーがウロウロしている。
一目でアブナイと感じたので、話しかけなかった。

ゴアの最も奥地にあるビーチ。
誰もいない砂浜。
清流を上っていくと、木陰からたくさんの人の集まっている様子が見えた。
ハレクリシュナ、と歌が聴こえる。
俗にいう、コミューンである。
ゴアにもまだあった。
参加してくる!と三郎に告げ、突入しようとしたら、「ここのは●●●●るから絶対に行くな!」と引き止められた。
三郎が世界的倫理観の持ち主であったことを、今でも不思議に思っている。
三郎は、しばしば左手で食事をしていたからである。

しかしながら、三郎には、地元のマフィア風の男に売り飛ばされそうになった。
ボスの間(?)に閉じ込められ、私が必死で助けを求めているというのに、三郎が新聞を読むふりをし、ニヤニヤしながらこちらを観察していたことについては、許しがたい。
マフィア風の男に激しい怒りを表明し、振り返ったときの彼の心底嬉しそうな表情を、今でも覚えている。
ブラックマネーなるものを初めて手にしたのも、三郎の仕業であった。
彼が仕事を休んで私を冒険に連れて行ってくれたことには、深く感謝している。
数々の悪巧みについても、当時だからお互い受け入れられたのかもしれない。
三郎が私を売り飛ばす気などなかったことはわかっている。
今では彼も立派な大人になり、家庭を築いていることだろう。
少なくとも十年ほど前、南インドとはそうした土地であった。




そろそろ石の話に戻ろうと思う。
左の写真を見ると、このアメジストがセプタークォーツの要素を持っていることがわかる。
その後さらに成長し、起伏に富んだ形状になっていったとするなら、しっぽはその名残りなのかもしれない。
もうひとつ、カルール産アメジストに特徴的なのが、ゲーサイトやレピドクロサイト、カコクセナイトなどのインクルージョン。
右の写真では、サンストーンのような煌きに混じって、お馴染みのピンクのファイアが確認できる。

本来、スーパーセブンはブラジルのエスピリトサントから産するものを指すということになっている。
ビーズに関して、エスピリトサント産のスーパーセブンを使うことは、ほぼ無いようだ。
過去には流通があったが、同様の水晶が世界中から産するとわかってからは、原価の安い途上国からのアメジストが用いられるようになった。
インド産もおそらくもう無いはず。
また、万が一サチャロカ産と明記されていた場合は、必ず事前にお店の方に確認されることをお薦めする。

下の写真においては、一箇所の面に雲母が挟まるように入り込み、緑を帯びて見えるほか、シトリンの色合いも入っているのがわかる。
しっぽのついたかわいい姿を楽しみながら、その内部に広がる宇宙を味わいたい。
スーパーセブンの七つの要素+雲母+シトリン+しっぽ=?




41×20×16mm

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?