2012/11/30

フォーダイト


フォーダイト Fordite
Ford Rouge Plant, Detroit, Michigan, USA



フォーダイト、またの名をデトロイト・アゲート。
キラキラ輝くラメ状の細かな粒子、鮮やかな色合い、独特の模様が楽しめる。
アゲート(めのう)でないのは一目瞭然。
その正体は、米国はフォード社の自動車工場で塗装に用いられたラッカーだという。
しかしながら自動車には全く興味のない自分には、フォードが一体何なのかわからない。
アメリカの歴史に深く関わり、単なる民間企業の枠を超えた伝説的存在のようだ。
必死で調べたことをまとめたのが以下。



米・デトロイトに本社を置くフォード社は、ヘンリー・フォードという人物により1903年に創業された自動車メーカー。
100年以上に渡って世界の業界をリードしてきた会社で、戦争や不況といった困難を乗り越え、現在も存続しているという。
いわゆる「流れ作業」を最初に取り入れたのもフォードであったとのこと。


流れ作業といえば、子供の頃に観たチャップリンの映画。
あまり良いイメージではないのだが…
それはさておき、この不思議な宝石の産地は、工場での塗装部門。
1940年~80年代にデトロイトの工場から出た副産物をリサイクルして出来たのが、フォーダイトということになるようだ。
フォード社では、長い間ラッカーを用いた車体の塗装を行ってきた。
流れ作業において飛び散ったラッカーが積もり積もって、フォーダイトの原形(→写真はこちら)が完成した。
たまたまカットしたところ見事な宝石になったため、噂が噂を呼んで、広まっていったようである。

現在工場は閉鎖され、国外へ移転している。
80年代を最後に塗装の方法も変更になった。
今後中国以外から出てくることは無い。
あるときを境に消えたという神秘性や、カットして初めてわかったその美しさと偶然性こそが、フォーダイトの魅力といえよう。
こんなものを宝石にカットしようと思った人がいたのは驚きである。

工場からの副産物といえば、ジンカイトやスウェデッシュブルーが有名である。
スウェデッシュブルーと異なるのは、産出場所や埋蔵量(?)が特定できるため、いつ市場から消えるかもはっきりしているということ。
1940年代の古い素材を用いたフォーダイトは、モノクロに近いシックな印象で、数が少ないために希少価値が付くのだそう。
写真のフォーダイトはサイケデリックな色彩が好まれた70年代のフォーダイトのカット品で、同じ塊からカットされたものと伺っている。
最末期の80年代のカット品は、時代を反映した派手な色合いが特徴で、市場に出回っているものの大半がこれにあたるらしい。

こんな個性的な色を自動車に使っていたというのは、考えてみれば不思議なこと。
国産車は高級品になるほど白や黒、シルバーといった無難な色になる。
60~70年代のベンツなど、欧米の車に見られる、芸術性の高いカラーリングやデザインには、車に興味のない私でさえ感動を覚える。
ヴィンテージの車を愛する知人が多い私は恵まれている。
国産車にそういった美意識が皆無なのは、自家用車における歴史が浅いこと、個性より効率を重視した結果といえるかもしれない。

思うに多くの日本人は、車に芸術性など求めないのであろう。
空調やカーナビゲーション、イミテーションの毛皮などは、自動車には本来必要のないものである。
ましてや安全確認のおそろかになるテレビ、他車の走行を妨げる過剰なイルミネーション、騒音を奏でるオーディオなどを積むのは、不幸な事故につながる危険行為に他ならない。
車は人の命を一瞬にして奪う。
不幸な事故を極力避け、通行人に不快感を与えないよう、芸術性にこだわるべきである。
それができない者には軽トラの利用が適している。

話が逸れてしまった。
フォーダイトには自動車文化を彩ってきた遊び心が詰め込まれている。
米国ではアクセサリーとして人気も高い。
今後ヴィクトリアストーン同様、中国からの模造品が出回ることが危惧されるから、興味のある方はお早めに手にしていただきたい。


40×25×5mm, 31×30×5mm  計10.25g


この度は多くの皆さまにオークションにご参加いただきました。
本当にありがとうございました。
皆さまの温かいメッセージに涙し、励まされ…
オークションも最終段階に入りました(なんと、まだ終わっていなかったんですね!)

最後まで全力で頑張ります。
この場を借りて、皆さまにお礼申し上げます。
次回は池袋にてお会いしましょう(フォーダイトも参ります)!

2012/11/29

フェナカイト(ロシア産)


フェナカイト Phenacite
Malyshevo, Ekaterinburg, Ekaterinburgskaya Oblast', Russia



世界で最も希少な鉱物のひとつにして、石を愛する人なら誰もが手に入れたいと望んでいる。
それがフェナカイト(フェナサイト/フェナス石)と呼ばれる石である。
もちろん他の鉱物と共生した標本(→こちら)などではなく、ロシア、マリシェボ産フェナカイトの単独結晶ということになろう。
収集家なら一度は憧れる希少品、高い波動を持つニューエイジストーンとしても知られるこのロシアンフェナカイト。
マリシェボのフェナカイトは枯渇しかけているから、知名度の割に良品は少ない。

フェナカイトといえばミャンマー産。
比較的流通があり安価で手に入る。
ミャンマー産は小さいながらクリア、結晶の様子も独特でわかりやすい。
結晶の複雑さ、美しさで選ぶなら、ミャンマー産より若干入手しづらいブラジル産もおすすめ。
もしあなたがハイレベルなフェナカイトにこだわるのなら、ロシア産をひとつは持っておきたい。

写真は最も価値の高いとされる、ロシアはウラル地方、マリシェボ産のフェナカイト。
マリシェボ産の特徴である、グレーの母岩を伴う大きな標本で、一目で気に入って購入した。
ロシアンフェナカイトの完全結晶の多くは、写真のように母岩に覆われている。
岩の隙間に見える透明結晶に浮かぶ虹が美しい。

フェナカイトは近年、パワーストーンにまでなって登場している。
特にパワー満載だというロシア産に憧れ、お探しの方が多いようだが、なかなか予算に見合わずお困りと聞く。
安いものには必ず訳があるから、あせらずお探しになることをお薦めする。
ロシアンフェナカイトがどうしても必要な場合は、なるべく切断、加工されていない原石を探してみよう。
マリシェボならではのこのグレーの母岩がないと、いったいどこから来た何者なのか、パワーで判断するしかないからである。




25×19×15mm

2012/11/25

アイスエンジェル/見つかったアイスデビル


アイスエンジェル™
Ice Quartz
Madagascar



先日出会った謎のクリスタル、アイルデビル。
お世話になった方のご厚意でお借りしたにも関わらず、翌朝には消えてしまった(→なりゆきについてはこちら)。
必死になって探したのに、いっこうに見つからない。
大切なコレクションをお預かりした以上、弁償しなければならない。

問題はどこから入手するか。
渦中の人物からの購入品でないことは伺っていた。
アイスデビルの正規取扱店を自称するその人物は、どうも日本人かどうかすら疑わしく、会社の存在自体危うい。
詳しいことはここでは記すことができない。
かの人物の取り扱うヴィクトリアストーンアンダラクリスタルはすべて中国産もしくはオークションからの転売品であり、しばしば劇薬や産業廃棄物が混入しているという。
信じがたいことだが、その人物の扱う鉱物を私はこの目で見ている。
悪寒がして処分してしまっただけに、説得力がある。
飯盛博士のご遺族との親交についても嘘であったとみられる
そのような人物から得体の知れない化学物質を買うことができようか(※注)

そんな折、偶然卸先で見つけた透明水晶の塊。
マダガスカル産出のアイスクォーツとあるから、もしかしたら同じものかもしれない。
すぐに注文した。
アイスデビルをお借りしていた方からは、代わりにはなり得ないことは明白にも関わらず、ご快諾いただいた。
たった一度だけ見たアイスデビル。
はっきり覚えている。
果たして同じものなのか。

燃えつきかけながらも必死で取り組んだオークションが終わり、一息ついた頃だったか、その水晶は我が家にやってきた。
意外な誤算だった。
マダガスカル生まれというその水晶は実に清涼で、強く純粋な光を放っていた。
残念ながらアイスデビルとは別物(何人かの方にご意見を伺ったが、異なるとのご意見のみ)。
アイスデビルの第一印象が「硬い」のに対して、届けられた水晶は「やわらかい」質感を持つという点で全く異なる。
そこで私は名案を思い立った。
アイスデビルとの違いを明白にすべく、私が勝手に名前をつけてしまおう、と。

かくしてアイスエンジェルという新しい高波動クリスタルが、うさこふにより勝手に考案された。
アイスデビルに対抗すべく、数秒余りで閃いたとはいえ、我ながら良い名である(自画自賛)。
実際、アイスエンジェルという名のヒーリングストーンは、ありそうでなかった。
新世代のクリスタル、アイスエンジェル™が世に誕生した瞬間であった。

いっぽう、アイスデビルは一ヶ月近く経っても見つからなかった。
わるい印象は全く受けなかっただけに、私自身の問題と自分を責めた。
ただ、アイスエンジェルが来てからというもの、状況は目に見えて好転していった。
この未知のクリスタルが、悲しみや不安をひとつずつ消していくかのように思えた。
一刻も早くあの方にアイスエンジェルをお届けしようと思った。
一つ一つチェックし、最もクリアな石2つと、レインボーの見える石、以上の3つを選んで、梱包に取りかかった。
ふと、しばらく見ていなかった愛用のグレーのポーチが目に入った。
今にも転がりそうである。
慌てて救助し中身を取り出した。
絶句した。
あれほど探し回ったアイスデビルが出てきたのだ。
のちに、お守りとして持ち歩いていたはずのガーディアンストーン/ガーディアナイト(H&E社)が一緒に入っていたことに気づき、神妙な気持ちになった。

急がないとまた消えてしまうかもしれない。
ひとつをアイスデビルと入れ替えてすぐに発送した。
実は、不安だった。
あれほどクリアだったアイスデビルが、濁って見えたから。
石には魂が宿る。
目に見えない力についてはわからない。
だが、私がもしあの石を濁らせてしまったのだとしたら、私の心の濁りが原因だ。
あえて事前にご連絡せず、手紙をしたためて発送した。

それから十日余り。
今だご連絡がない。
事前にお伝えしなかった自分に問題があると感じ、メールを送ったところ、すぐにその方から変わらぬ元気なお返事が返ってきた。
お忙しかったとのこと、荷物のほうは無事に到着していると伺い、ホッとした。
ただ、不可解な点がある。
2日前に到着したばかりとのこと、十日前には送ったはずだから、もしかすると何らかのトラブルに巻き込まれたのかもしれない。
奇想天外な出来事が続きすぎて、もう慣れてしまった。
気になるのはアイスデビルの変化。
お返ししたさいの様子について、恐る恐る伺った。
意外なお返事をいただいた。
アイスデビルの奥から虹が見え、輝いているとのお話。
ダメージによるクラックをそう表現してくださったその方のご配慮には恐縮している。
こちらを出発したときには虹は無かったから、長旅がこたえたのだろう。
石の濁りについては、伺うタイミングを見失ってしまった。

人間なら誰しも夢を見る。
こんないいものを見つけたならば、もっと手に入れておこう、と。
もしアイスエンジェルが私に幸運を運んできてくれたのなら、追加で注文するべきではない。
タイミングに拠っては全く異なる石が届くのがロット買いのデメリット。
私はこの限られた石に感謝し、不思議な偶然を信じることにした。
アイスデビルとの比較用として、安易にお配りするのはやめるようと思った。
ロットでの購入だったが、量は思ったより少なく、無料でお配りすることはできない。
もし本当に必要としている方がおられたら、お譲りしたい。

推測になるが、アイスデビルは中国産水晶の加工後の欠片ではないだろうか。
加工される水晶はもっぱら、中国またはブラジル産水晶である。
欧米向けに加工されるブラジル産とは異なり、中国の水晶は独自のルートで日本に入ってくる。
中国産水晶は産出の多さに関わらず、極めて透明度が高い。
原価も安いうえ、日本であれば地理的にも有利。
加工された余りについても需要が見込めるのは、どう考えても日本だろう。
以上は推測である。
どうか事実とは受け止めないでいただきたい。
参考までに、日本までの国際郵便の送料が最も高い地域に、マダガスカル及びブラジルが分類される旨、記しておきたい。





注:悲しいことに、アイスデビル販売者の信じがたい噂はすべて事実でした。アンダラ等は絶対に直接触れてはいけません。ヴィクトリアストーンとされる染色品等も危険です。小さなお子様やペットの命を守ってください。アイスデビルは500円を超えない範囲でのご購入を強くお薦めします(詳細はこちら)。


35×27×14mm  計23.23g

2012/11/18

ネビュラストーン


ネビュラストーン
Nebula Stone
Remote Mtn., Córdoba, Veracruz-Llave, México



深いダークグリーンの色合いと、神秘的なゴールドの輝き。
銀河系の彼方を思わせる模様を持つこの石に、星雲を意味するネビュラの名が与えられた。
写真で見ると儚さが漂うが、手に取ると実に艶やかで、色濃く重厚感がある。
気に入っていつも見えるところに飾っていた。
手に入れた当時は、かなり珍しかった。
アゼツライトをきっかけに日本で知名度を上げた米Heaven&Earth社が、このネビュラストーンを取り扱っているためか、現在はあちこちで見かけるようになった
もうレアストーンには含まれない…
はずだった。

先日のオークションでネビュラストーンを紹介させていただいた。
反響は大きかった。
注目に値する石だとは思っていなかったため、驚いた。
また、予想外の価格を付けたネビュラストーンをご落札くださった持ち主様はしかるべき人物だった。
過去には、どなたかにプレゼントしようと思って手に取ったこともあった。
今日まで手元に残しておいて良かったと心から思う。
しかしながら、知名度が上がっているはずなのに、お持ちでない人が非常に多いのは奇妙である。
ふと、国内でどれくらい流通しているのだろうかと、画像検索をかけてみた。

仰天した。
水疱瘡(みずぼうそう)のような恐ろしい発疹模様の石がズラーッと出てきた。
儚いペールグリーンの地肌に、著しい症状が数え切れぬほど、これは重症である。
あまりの衝撃に、私まで水疱瘡になりかけた。
大量に出回っているのに、何かが違う。
そう、確か、マダガスカルから産出するストロマトライトか何かだ。
マダガスカル産と書いてあるから間違いない。
もはや星雲ではない。
水疱瘡石(みずぼうそうせき)の和名がふさわしい。

1995年、メキシコにおいてロンとカレンの二人により発見されたネビュラストーンは、ヒーリングストーンとして現在も高い評価を受けている。
発見当初はネフライトの一種だと思われていた。
調査の結果、リーベカイト、アノーソクレース、エジリンと石英から成る混合石であることが判明したという。
明るいグリーンは微細なエジリンに覆われたリーベカイト。
石英を多く含む部分がツヤのある暗いグリーンとなり、独特の模様が生まれるという。
鉱物としては非常に珍しい組み合わせで、他には例がないとのこと。

では、あの水疱瘡はいったい何の石だったか。
確か、ストロマトライトから成るオーシャンジャスパーだったはず…
そう思い込んで大騒ぎしていたら、カンババジャスパーだよ、とツッコミをいただいてしまった。
そうだった。
少なくとも4年ほど前に大問題になったから、覚えている。
まさかカンババジャスパーがネビュラストーンにとって代わり、本物として販売されているなどと、予想できようか。
カンババジャスパーはマダガスカルから中国に流れ、ビーズにまでなるくらい多くの産出がある。
ネビュラストーンのほうは数は圧倒的に少なく、両者の価格には大きな差異がある。
一緒にするのは問題がある。
ところが、市販価格はほぼ、変わらない。
間違えて買ってしまった方もおられるかもしれない。

不安に思って、発見者であるロンとカレンに直接問い合わせてみた。
二人はカンババジャスパーが「ネビュラストーン」として流通していることを、たいそう悲しみ、お悩みのご様子だった。
是非本物をと、綺麗なポリッシュをお薦めいただいたのだが、支払い方法が折り合わず、断念となった。
お二人は最後まで親切に、誠実に接してくださった。
ネビュラストーンはメキシコからしか産出していないことを強調しておられたのが印象的だった。
お二人の真摯な姿勢が、この石の奏でる壮大なる宇宙の静寂に重なって見えた。

状況はつかめた。
十日ほどたったある日、再び画像検索をかけてみた(※この結果はイメージです)。
再び仰天した。
ショッキングな薄緑の水疱瘡ではなく、シルバーメタリックなエイリアンが並んでいる。
メキシコ産ネビュラストーンとは書いてあるのだが、不気味である(マダガスカル産カンババストーンと呼ばれているもののよう)。

マダガスカルから新しく発見されたというネビュラストーンは売り切れていた。
たった一週間余りで完売とはまた、奇妙である。
ネビュラストーンとカンババジャスパーの混同については長年問題視され、発見者の方まで伝わるほどに深刻な事態となっている。
それを販売者が知らないというのは不自然に思える。

あれからもう一ヶ月経つだろうか。
メキシコ産ネビュラストーンがリニューアルのうえ、新発売されているようである。
なぜか水疱瘡石(みずぼうそうせき)に逆戻りしている。
つまりネビュラストーンは結局カンババジャスパーのまま。
売り手のほうも本物のネビュラストーンをよくご存じではなく、対応に追われた挙句、諦めたのかもしれない。
しかしながら、発見者や関係者から仕入れず、不確かなルートを通したのは明らかである。
皆さまも、自己責任で購入いただきたい。


参考)パワーに騙されず真実を見抜かれている例
http://d.hatena.ne.jp/tarosource/20070508

ムンクとはまさに言いえて妙。
筆者は芸術的・霊的に高い領域に達しておられる方とみられる。
筆者の指摘通り、本物のネビュラストーンは癒しの石とみて間違いない。
現在は素晴らしい能力者としてご活躍されていることだろう。


40×22×10mm  10.43g

2012/11/12

ラピスラズリ


ラピスラズリ Lapis Lazuli
Sar-e-Sang, Koksha Valley, Badakhshan, Afghanistan



ハロウィンの夜、少女と出会った。
よく喋るし、よく笑う。
可愛らしいのにしっかり者。
聞き分けよく、瞬時に空気を読む聡明な子供だ。
例の如く、私は違和感を感じた。
私には、彼女がいったい幾つで、なぜそこにいるのかわからなかった。
彼女が他者に対して例外なく敵意を示していることが、あらゆる場面に見て取れた。

少女はハロウィンのパレードを見たという。
手の無い人やゾンビ、身体中を弾丸で打ち抜かれた看護婦がいたと、興奮気味である。
小学生としては非常に歪んでいる。
よく笑うのに、ほんの一瞬、恐怖に脅えた表情をする。
身体の傷。
顔は無傷。
学校には行けていないのかもしれない。
学年を聞いたが返事はない。

こうした子供のほとんどは、虐待児だ。
(子供から)いじめられている子供とはまた違った違和感がある。
彼らは完璧に振舞う方法を知っている。
助けてくれる大人が存在しないから、本当の自分を隠している。

今までの人生において、私に近づいてくる子供には、例外なく訳があった。
私は子供を子供扱いしないようにしている。
幸せな子供ならその厳しさに堪えかねて、愛情を求め親のもとへ行ってしまうのだけど、そうでない子供たちは立ち向かう。
誰も助けてくれない。
人は一人で生きるもの。
過酷な現実を生きていることは、誰にも悟られてはならない。
私自身そうだったから、子供を子供扱いしない。
大人として扱うことしかしない。

少女はプラスティックの宝石箱を見せてくれた。
買ってもらったばかりだという。
今どきの子供が喜ぶような本格的なつくりではなく、一年ともたないようなプラスティックのおもちゃだった。
何も欲しがらないように見えた少女の口から、宝石の名前が次々に出てくる。
ダイヤモンド、ルビー、サファイア、アクアマリン、トパーズ…小学生が知らないような宝石まで知っている。
彼女は宝石箱が宝石でいっぱいになることを夢見て、幸せそうだった。
だけど、宝石箱に入れるものがないのは一目瞭然だった。
そう、まさかの私の出番なのである。
その日私は撮影のため、石をいくつか持ち歩いていたのだ。

問題としては、子供はレアストーンを喜んだりしないであろうこと。
誕生石ほどに有名でないと、忘れてしまうだろう。
誰でも知っていて、万が一保護者に見つかっても見逃してもらえる石はないものかと、袋からひとつ石を取り出した。

ラピスラズリだった。
どうしてこんなものが入っていたのかわからない。
これなら誕生石にも含まれるし、子供でも知っている。
プラスティックの箱にぶつかっても割れないはずだ。
私はラピスラズリを彼女に渡した。
彼女は、黙って受け取った。
ラピスラズリという石であることだけ伝えた。
彼女は「その石は知らない」と私に言った。

これから先、少女には今以上の困難が待っている。
彼女は他人のことなど信じていない。
信じるべきではない。
信じても裏切られる世界を少女は生きていく。
ラピスラズリだって、今頃はもう無いかもしれない。
捨てられてしまったかもしれない。

少女は夜の道を踊っていた。
宝箱の中にたったひとつ、ラピスラズリが踊っていた。
やがて彼女は誰にもわからないように、静かに涙を流し、眠りについた。


ここに石が立っている、
見栄えのしない石が。
それは値段にすれば安いし、
愚者からは軽蔑されるが、
その分だけ賢者からは愛される。

時間は子供だ
子供のように遊ぶ
盤上遊戯で遊ぶ
子供の王国。
これはテレスポロス、
宇宙の暗やみをさまよい、
星のように深淵から輝く、
彼は太陽の門に至る道を、
夢の国に至る道を、
指し示す。

『錬金術師の石(ラピス)…』/「図説ユング」(林道義 著)
http://starpalatina.sakura.ne.jp/wise_saying/wise_saying.html


40×32×26mm 39.84g

2012/11/04

コロンビアレムリアン


コロンビアレムリアン
Colombian Lemurian
Peñas Blancas, Boyaca, Colombia



毎度のことながら、鉱物で世界を一周している。
今日は、危険な噂の絶えない南米・コロンビアを訪問する。
世界最高級と称される鉱物がピンポイントで産出するコロンビアの魅力を探ってみたい。

コロンビアといえばなんといっても、エメラルド。
世界で最も質の高いエメラルドはコロンビアから採掘されている。
それに伴って発見されたユークレースもまた、世界中で高い評価を受けている。
数あるコロンビアのエメラルド鉱山の中でも、かのムゾー鉱山からは、トップクオリティのエメラルドが産出している。
そんなムゾー鉱山から50kmほど離れた山中より発見されたのが、このコロンビア・レムリアン。
ブラジルの元祖レムリアンシード、ウラルのロシアンレムリアン(ロシレム)に続く新たなレムリアン水晶として話題になったのは、少なくとも4年以上前のこと。
地球温暖化に伴って溶け出した氷河の下から発見された、という話題性も手伝って、広く流通した。

上記のふれこみについては諸説ある。
同時期に話題になったヒマラヤアイスクリスタルのキャッチコピーにそっくりなのは明らか。
現地の産状が誤って伝えられたとする向きもある。
コロンビア・レムリアンの産出する鉱山は、有名なエメラルド鉱山でもある。
鉱山からはもともと見事なトラピッチェ・エメラルドが多数産出している。
勇敢にも高所の氷河跡を目指した人々により新たに発見されたということだろうか?(→鉱山の写真はこちら
いったいその氷河がいつ溶け、発見されたのかについては謎が多い。

コロンビア・レムリアンの特徴である、圧倒的な透明感。
表面には細く小さな水晶が二つ、潜りこんでいる。
コロンビア・レムリアンには、通常6面あるトップのファセット部分のうち3面が六角形、あとの3面が三角形に結晶していることがあり、ムゾー・ハビットと呼ばれて、クリスタルヒーラーの間で珍重されている。
このコロンビア・レムリアンにはムゾー・ハビットはみられないが、大きな3面のうちひとつが◇の形をしているのが面白い。
その左には見事なレコードキーパーが浮かんでいる(いずれも本文下の写真右)。
さらに、表面に皮膜のような虹が出る。
或いは、レムリアンといえば水晶の側面にバーコードのように刻まれた模様。
この標本も例外ではない。

水晶というのはほんとうにややこしくて、ちょっと変わった形をしていると付加価値がついてしまうため、物覚えの悪い自分には把握しきれていない。
水晶に価値を置く傾向は特に日本において顕著で、欧米の比ではない。
さきほどの◇にも特殊なネーミングが与えられ、高額で流通している。
端正な正五角形のファセット面はイシスクリスタルという。
イシスの出ている水晶は好きで、わりと手に取るのだが、四角形はなんだったか思い出せない。

そんな訳で、調べてみた。
水晶の先端に現れる◇はウインドウ、もしくはタイムリンクのいずれかのよう。
ただ、ウインドウは7つ目のファセット面限定(!)だとか、タイムリンクは長方形だといった議論に発展している。
だとしたら、6つ目のファセット面に菱形に出ているコレは、どちらにも該当しないということか。
どうも日本においては、こうした特殊なクリスタルにこだわり、価値を付けすぎるきらいがある。
欧米ではコロンビアレムリアンのムゾー・ハビットが強調されるにとどまっている。
ウインドウやタイムリンクで検索して引っかかるのは、国内サイトが大半で、コロンビアレムリアンに関してはその豊富な特殊要素をもって、マスタークリスタルの名を与えられていることも多い。
中にはマスタークリスタルと言えないものも含まれる。
ウインドウやタイムリンクの名を考案したのは欧米のクリスタルヒーラーのはず。
なぜ日本でここまで広まってしまったのか。
販売目的で多用されたのであれば、またもや注意を喚起しておかねばなるまい。

なお、レムリアン水晶は、地球上に5種類(6種類説もあり)眠っているという。
ブラジル、ロシア、コロンビアに続き、あと2ヶ所から発見される予定だという。
一面置きに現れるはずだったレムリアンシードの定義が、曖昧になってきている今、果たして5ヶ所で済むかどうか、甚だ疑問である。
レムリアンシードと呼ぶことの可能なバーコード付き水晶は、アーカンソー州ホットスプリング産の水晶などに顕著であり、そうした水晶を数えだしたらきりがない。
またブラジルでは、他の産地からも続々と新型レムリアンが登場していて、もはや6種類を超えている。
レムリアの記憶は謎に満ちている。
実に奥が深い。




37×10×9mm  4.65g

2012/11/02

ファイヤーオブシディアン/玲瓏


ファイヤーオブシディアン
Fire Obsidian
Kyzyl Kum, Armenia



黒耀石をこよなく愛するうさこふのもとに、岩石岩男(がんせき・いわお)を名乗る人物から、珍情報が入った。
ファイヤーオブシディアンが北海道から産出する黒耀石、十勝石の中にごく稀に存在し、国産鉱物ハンターの間で伝説になっている…
その名も玲瓏(れいろう)。

ファイヤーオブシディアンといえば、オレゴン産の70年代のコレクションを、知人のご厚意で入手したばかり。
ピンクやレッドのファイヤが蛍のように飛び回るさまは、ピンクファイヤークォーツを圧倒していた。
ピンクファイヤークォーツは所詮、幻のオブシディアンの輝きに対する憧憬に過ぎなかった。
そう、思い込んでいた。
しかしながら、玲瓏の写真を見て思った。
私はファイヤーオブシディアンを誤解していたかもしれない、と。

岩石岩男氏に送っていただいた玲瓏(れいろう)の写真。
あたかもダイクロイックグラス(→特殊な技術を用いて作られた人工ガラス/写真はこちら)の如く輝く、メタリックな虹色のオブシディアンの姿がそこにあった。
レインボーオブシディアンにおける、ホログラムのように浮かぶ幻想的な虹とは異なる、力強い輝きである。
私の手持ちのファイヤーオブシディアンとは様子が異なっていて、蛍のように飛び交う赤いファイヤは見えないようであった。

そもそも玲瓏とは一体なんのことだろう。
辞書には、"透き通るように美しいさま、珠のように輝くさま" とある。
漢字が難しくて読めず、当初は中国産の黒耀石のことと思い込んでしまった。
玲瓏は古くから存在する日本語であり、「美しさ」を表現するにあたっては最も褒むべき表現のひとつにあたるものとみられる。
情けない限りである。
ただし現在、玲瓏という言葉は日常的には用いられてはいない。
十勝石にごく稀に現れるという幻の玲瓏。
この言葉を石に与えられるとしたら、古き良き日本の美意識を知る人物ということになろう(岩男情報:1968年に十勝の識者によって瞬時に命名されたとのこと。鉱物の専門家ではないという。私には言葉がみつからない)。

では、十勝石に稀にみられる玲瓏とは、一体なんだろう。
十勝石はマホガニーオブシディアン(黒地にブラウンの模様の入った黒耀石)様の外観で知られる国産鉱物の代表格。
岩石岩男の話では、国内では多彩なシーンの見える黒耀石は、すべて玲瓏に分類されているとのこと。
つまり玲瓏には、ファイヤーオブシディアンとは呼べないものが含まれる。
おそらく、生きているうちに国産ファイヤーオブシディアンに出会えたなら、その幸運な人生を喜ぶべきである。
玲瓏という言葉すら知らなかった自分にはまだ早い。
未知の鉱物が気になって仕方がない私には珍しく、あっさり諦めた。

謎の人物・岩石岩男とはその後も交流が続いていた。
幻の国産ファイヤーオブシディアン、玲瓏(れいろう)。
私には、知人から譲っていただいた見事なファイヤーオブシディアンがある。
出会ってしまってから、考えよう。
などと、暢気に構えていた。

幻の玲瓏を知ってから十日余り、私は仕入れのためにお世話になっている鉱物店を訪れていた。
遅刻のため、持ち時間はたった一時間。
お願いしていた石を手にし、お疲れの店長と苦労話などをしながら、鉱物を見て周っていた。
そのとき私の目に、例の如く(?)見覚えのある光が飛び込んできたのである。




ブツはアルメニア産の黒曜石の塊。
写真の通り、メタリックな虹があちこちに浮かんでいる。
レインボーオブシディアンとは明らかに異なるこの虹、写真で見た玲瓏にそっくりである。

こんなにも早く遭遇するとは思っていなかったため、心の準備ができていない。
情けないことに、メタリックなレインボーを目前にして、玲瓏という単語が出てこない。
ひととおり在庫を見せていただいた。
虹が広範囲に入っているのは2つのみ。
2つとも譲っていただけることになった。
ちなみに、写真は小さいほうになる(→大きく虹の多いほうはオークションにて発表中です)。

気になって海外サイトを調べてみた。
ファイヤーオブシディアンとして流通しているのは、手元のアルメニアの黒耀石と同じもののようだった。
ファイヤーアゲートのようなメタリックな輝きがその特徴とみられる。
一般にはスモーキーオブシディアンに起きる現象で、米・オレゴン州から比較的産出がある。
私がアメリカ人に譲っていただいたファイヤーオブシディアンの産地に同じ。

思うにファイヤーオブシディアンには、こうしたレインボータイプと、蛍のようなファイアが飛び出すほたるタイプ、以上の2種類があるのではないだろうか。
私の持っているほたるタイプは、ゴールド/シルバーシーンオブシディアン・ベース。
メタリックな虹の見えるものだけが、ファイヤーオブシディアンと呼ばれているわけではない。
その定義については曖昧な点が多い。
振り返れば、私はレインボーに彩られた最高級のファイヤーオブシディアンの写真を見ていた。
写真で見た極上の玲瓏は、知人のコレクションに大量に含まれていた。
初めて玲瓏の写真を見たとき驚かなかったのは、地球上に同じものが存在することを知っていたから。
とっさに情報として出てこなかったのは、私が心の余裕を失っていたためだ。

かつて十勝から産出したというかの黒耀石(文末にリンクあり)は、世界に誇るべきファイヤーオブシディアンに相違ない。
ただし、ネットで画像を見た限りでは、国産の玲瓏の大半はレインボーオブシディアンに同じ。
玲瓏が必ずしもファイヤーオブシディアンを指すわけではない。
ファイヤーオブシディアンは世界的に稀産であり、価値としてはレインボーオブシディアンの比ではないから、見分けられるようにしておいたほうがいいかも。
また玲瓏の呼称は、国産の黒耀石に限定するのが妥当であろう。




この標本には少なくとも6箇所、メタリックな虹の浮かぶ箇所がある。
シーンが途中で内部に潜り込み、見えなくなっているから、カットすれば見事な宝石ができるはずだ。
また、下の写真にあるように、よく見ると所々に赤系のフラッシュ(ファイヤ)も出ている。
アルメニア産の黒曜石にファイヤーオブシディアンがあるとは聞いていない(前述の通り、オレゴン・十勝産は60年代には確認されている)が、未研磨でこの状態なのだから、研磨したのちの姿も想像できるというものだ。


参考)見事なコレクションを拝むことが出来る黒耀石ハンターさんのブログ。
これが問題の国産ファイヤーオブシディアンで、動画を拝見した限りでは、アルメニア産に同じ:
http://www.geocities.jp/blood_obsidian/tokachi_fire_obsidian.html

※動画の視聴にはダウンロードが必要なので要注意。




75×63×41mm  125g


岩石岩男さま、あなたとのご縁がなければ、この出会いはありませんでした。
貴重な情報及びアドバイスをありがとうございました。
今後ともよろしくお願い申し上げます。

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