2011/10/28

ファントム・アメジスト


ファントム・アメジスト
Amethyst Phantom
Haran, Balochistan, Pakistan



美しい濃淡のみられる小さなアメジストが2つ。
ひとつは両端が結晶して、ダブルポイントになっている。
ファントムと呼んでいいのかわからない。
バイカラーもしくはエレスチャルアメジストとしたほうがいいのかもしれない。
ファントムとは幻の意味。
まるで幻を見ているかのようだから、勝手にファントムと呼ぶことにした。
ファントム・アメジストは一昔前なら希少品で、研磨品が大半だった。
スーパーセブンの登場以降、濃淡のあるアメジストは珍しくなくなった。
現在ではファントム・アメジストのアクセサリーやビーズなどを頻繁に見かける。

すりガラスのような質感を持つ透明水晶に、うっすら浮かび上がるパープル。
ファントムというより、インクルージョン(内包物)と呼んであげたくなる。
もともとはアメジストだった結晶に、それを取り囲むように水晶が成長したものだと思われるが、そんなことがあるのか。
この逆であれば、よくある。
先端にいくに従ってアメジストの色が濃くなるクラスターは比較的多く、ファントム・アメジストとして付加価値をつけているところもある。
中身だけアメジストと聞いて想像するのは、エレスチャルくらい。
実際、奥の標本はエレスチャルのような形なので、複雑な過程を経て、偶然に出来上がったものなんだろう。
神様はよくぞこんな不思議なものを創られたと思う。

イメージとしては春かな。
桜の花のような瑞々しさ。
これから来る寒い季節も、このアメジストがあれば乗り越えられそうな気がする。


20×12×10mm(手前) 5.48g

2011/10/24

アフガナイト


アフガナイト Afghanite
Sar-e-Sang, Koksha Valley, Badakhshan, Afghanistan



最近、なぜかアフガナイトを大量にみかける。
しかも安い。
その名の通り、アフガニスタン以外からは滅多に出ない希少石のはず。
いや、アフガニスタンからも滅多に出ないはずだ。

私がアフガナイトに出会ったのは2009年、ツーソンショー。
小さな結晶片を見つけ、感動のあまり購入した。
当時は調べても、情報どころか相場すらわからなかった。
ところが、本日検索してみると、出てくる出てくる。
まさか千円台からあるとは思わなかった。
2009年2月の時点では相場が全くわからず、一万五千円などという不当な価格をつけてしまっていた(売りたくなかったし、売れなかった)ので、冷や汗が出る。
しかしながら違和感はある。
なぜか、どのアフガナイトも形が同じ。
規格が統一されてるのかと思うほど、同じ。
大きな白い母岩に鋭いアフガナイトの結晶がついている状態で、こぞって紹介されている。

産地はアフガニスタンの山岳地帯、バダクシャンのサーエサン。
世界一美しいラピスラズリが採取されることで有名な土地。
かつて戦争の資金源となったほどの産出量だと聞いている。

ご存知かもしれないが、ラピスラズリは複合鉱物。
ラズライト(青~紺)、パイライト(ゴールド)、カルサイト(白)等から成る。
いっぽう、アフガナイトは無色~濃紺色までさまざまな色合いを示すという。
また、現地からは多彩な鉱物が産出する。
その中には、アフガナイト同様、ブラックライトで蛍光する性質を持つソーダライトも含まれるという…

これはどうも、ごっちゃになってるような気がする。
究極のレアストーンがあんなに出回るのはおかしい。
「カルサイトの母岩上にパイライトと共に結晶したアフガナイト」を自慢している人がいたのだけれど、その組み合わせは有り得ないだろう。
ラピスラズリやん。
アフガナイトがラピスラズリ(ラズライト)と共生した状態という見方はできるが、鉱物が好きなら疑問を感じてもよいのではないだろうか。
現地の情勢についても、決して良いとはいえない。
バダクシャンはアフガニスタンで唯一タリバンの支配をまぬがれた都市だが、今年1月にはタリバンによる外国人殺害事件が起きている。

アフガナイトは表面のみ青く、内部は無色であることが多いそうだが、こちらの標本は黒っぽい。
個性的で宜しい。
結晶は埋没しているし、ダメージもあるが、そのほうがむしろ自然だと感じる。
アホー石/パパゴ石の件があまりに衝撃的だったから、疑いたくもなるというものだ。

アフガニスタン方面のことはよくわからない。
とりあえず、戦争の資金源にはしないでほしい。
レアストーンハンター魂の叫び。



※なお、紫外線照射(ブラックライト)による色の変化の写真を載せているところでは、ピンク、オレンジ、反応無しの3パターンがあるようだった。こちらの標本は、ブラックライトでピンクに蛍光した。参考までに、ラズライトは蛍光しないこと、ソーダライトはオレンジに蛍光すること、手持ちのラピスラズリは部分的にピンクに蛍光したことを付け加えておく。
写真左のピンクの部分がアフガナイト結晶。右は愛用のラピスラズリ(カルサイトは肉眼では確認できず)のストラップ。




57x32x20mm  40.4g

2011/10/21

恐竜のふんの化石


恐竜のふんの化石
Coprolite
Moab, Utah, USA



米ユタ州、中世代ジュラ紀の地層から発見される、恐竜の化石。
こちらはそのウンコの化石がジャスパーと化したもの。
もちろん天然色である。
臭いは無い。
鮮やかな色彩は、かつて排泄物であったなどとは思えないほどの美しさ。

化石は、生物や植物が、長い年月を経て石にかわったもの。
コプロライトは恐竜そのものではなく、恐竜が生活していた上で発生したエレメントである。
排泄物や足跡など、生命の活動の痕跡として残されたものは、生痕化石と呼んで区別している。
生痕化石の中で最も人気があるのがコプロライトだ。

人類が誕生する前に絶滅した、幻の恐竜。
恐竜たちはいったいどんな暮らしをしていたのか。
どんなものを食べていたのか。
便秘や下痢はあったのか。
想像は膨らむ。
実際、コプロライトは、その生物の活動の実態を知る上で、非常に重要な資料となる。
専門家により分析が進められ、太古の生命の秘密が明らかになっているという。

化石はどちらかというと男性に好まれる。
少年は化石に飛びつき、少女は水晶玉に見惚れるイメージ。
ときにグロテスクな姿をした化石に、抵抗感を示す女性は比較的多い。
私自身、アンモナイトをはじめ、貝類と虫系はすべてダメ。

コプロライトはかなり気に入って、いくつか集めた。
試しにと、コプロライトを販売してみたことがある。
ネタのつもりだったが、評判はすこぶる良かった。
興味を示された方のほとんどが女性だったのも意外。。

中にはめのう化していない、まんまウンコなコプロライトも存在する。
絵に書いたようなコプロライトも存在する。
興味のある方は、お食事を終えた上で、是非とも調べていただきたい。

写真ではわかりにくいかもしれないけれど、このコプロライト、かなりでかい。
アメリカのコプロライト専門コレクター(!)から譲り受ける際、サイズを誤認した。
米ではグラムでなくポンド表記。
計算が面倒なので、いつも直感で仕入れていた。
送料がどうも高いような気はしていた。
今も実家の床の間に飾ってあるはずだ。
少し派手だが、鑑賞石として違和感はないようで、今のところ誰も気づいていない様子である。

以前知り合った宝石ディーラーの台湾人女性に、「なぜ日本人はウンコを見て喜ぶのか?」と聞かれた。
私がコプロライトを買う様子を見て、不思議に思ったらしかった。
「日本では、犬のウンコを踏むと運がつくという言い伝えがある。幸せになれるのだから、喜ぶのは当たり前です。」
そう教えてあげた。
彼女は大喜び。
「これからは、ラッキーでハッピーになれるように、積極的に犬のウンコを踏むようにするわ!」
彼女の帰国後、旦那様はさぞ迷惑したことであろう。

コプロライトならそのような心配は不要。
そろそろクリスマスのネタづくりの季節、クリスマスプレゼントにコプロライトはいかがだろう。
お安いですぜ、プープ。


98×60×48mm  473g

2011/10/19

アレキキャッツ


アレキサンドライト キャッツアイ
Alexandrite Cats Eye
産地不明



実家にて、面白い石を見つけた。
私が初めて買ったルース。
なぜかアレキサンドライト・キャッツアイ(アレキキャッツ)。
際どいチョイス。
当時無一文に近かった私がこんなモノを購入できたのは、キャッツアイが角度によって右寄りになること、色変化の弱さ、また裏面に僅かなカケがあるためではないかと思われる。

キャッツアイとは、石の中央に、猫の目のような一条の線が浮かび上がってみえるさま。
シャトヤンシー効果とも呼ばれる。
キャッツアイがみられるのは、他にトルマリン、ガーネット、エンスタタイト、アパタイト、ベリル(エメラルド等)、スキャポライト、水晶など。
表記がキャッツアイだけの場合、クリソベリル・キャッツアイのことを指す。
原石からキャッツアイの有無を判断するのは至難の業で、熟練された職人にしかわからないらしい。
なお、キャッツアイが1本ならず、2本、3本と出るものはさらに希少価値が増す。

カット石、ルースの需要はさまざま。
宝飾業界ではダイヤモンドなどの貴石、収集家向けにはコレクション用の希少石がそれぞれカットされる。
相反する世界にあって、宝飾業界からも収集家からも愛されているカット石が存在する。
このアレキサンドライト・キャッツアイもそのひとつ。
カラーチェンジとシャトヤンシー効果を併せ持つこの石は、高価でありながらもファンが多い。
アレキサンドライトは、自然光で青、人工光で赤~薄紫に色変化を起こす。
その上、キャッツアイが浮かび上がるのだから、業界に関係なく、誰もが注目するのも無理はない。
なお、ハニーカラーのキャッツアイをアレキサンドライト・キャッツアイとして販売しているショップを見かけたが、クリソベリルであろう。
アレキサンドライトは、クリソベリルの変種である。

このルースには産地の記載がなかったので、産地不明とした。
集めたての頃は、後で何が必要になるかわからないもの。
どうも、スリランカ産ではないかと思う。
色変化が弱い。
これはスリランカ産のアレキサンドライト・キャッツアイの特徴でもあった。
ちなみにこれ、キャッツアイが2本ある。


1.39ct

2011/10/16

日本式三連双晶


日本式三連双晶
Japan Law Twin "Triple"
群馬県甘楽郡南牧村三ッ岩岳



二つの結晶が84゜33'の角度で接合し、ハート型になった水晶を日本式双晶と呼んでいる。
日本式三連双晶は、一つのポイントを軸に、二つの水晶がそれぞれ84゜33'に結合したもので、なかなか見かけない。
先日の秋のミネラルショーにて購入したもの。
平板状の結晶が左右対称に飛び出しているのがわかると思う。

日本式双晶は、たぶん、最も好きな鉱物。
ハート型は避ける性格なのだけれど、初めてこの水晶を見たときは、素直に感動した。
このような結晶が自然にできること。
日本が代表的産地で、"Japanese"というネーミングが世界的に定着していることにも興味を引かれた。
それまでは、狭い日本にマトモな鉱物標本など存在しないと思い込んでいた。
このブログの一発目に取り上げたのも、トップページに画像をくっつけているのも、メールアドレスにしているのも、お気に入りだったから。
ただ、積極的に集めたことはない。
国産鉱物の世界には、知識・経験ともに豊富な年配のファンが多く、何も知らない私には敷居が高かった。
気に入った形の日本式双晶が見つからないというのもあった。

水晶には思い出がある。
私がまだ幼かったとき、家族が山へ水晶を採りに行こうと言い出した。
魔法の結晶。
そんなイメージだった。
日帰りで行ける距離に、そんな場所があると聞いて、嬉しくて眠れなかった。
光り輝くクリスタルを拾う夢を見たほど。

待ちに待ったその日、私は一番に水晶を見つけようと、山を歩いてまわった。
しかし、水晶など何処にも落ちていなかった。
むき出しになった土を入念に調べても、キラキラした結晶はひとつとして現れなかった。
夕方になり、諦めるよう家族に言われた。
裏切られたような気持ちになった。
夢にまで見た水晶は、幻に過ぎないとわかったから。

その後、水晶をプレゼントしていただく機会はあったが、自分から探すことは意図的に避けてきた。
必ず裏切られる、だから絶対に求めてはいけない。
そう思うようにしていた。

鉱物に興味を持ってすぐ、かつてはその山から、美しい水晶が数多く発見されていたことを知る。
噂を聞いた人々がすべて掘り尽くしてしまったのである。
中には、ショベルカーで山を崩しにかかった者もいたらしい。
現地は今、山崩れを防ぐための柵に覆われている。
国内の有名な鉱物の産地のほとんどは、そうした理由で立入禁止になっている。
家族が嘘を言ったわけではなかった。

ふとしたきっかけで知り合った国産鉱物のディーラーであり、収集家でもある大先輩にお会いした。
予想を裏切らない、素晴らしい人物だった。
緊張した。
その方に、どんな鉱物に興味があるかと聞かれ、うろたえてしまった。
所詮は広く浅く、とっさに出てくるはずもない。
言葉に詰まっている私に、その方が薦めてくださったのが、写真の石。
日本式双晶のクラスターかと思ったが、それだけではない。
鳥が羽を広げたような形から、鳥形日本式三連双晶と呼ばれている、極めて珍しい双晶とのことだった。
まったく知らなかった。
福島のほうはなんとか落ち着いていると、笑顔でお答えになった。
涙が出そうになった。

鳥形日本式三連双晶の存在は古くから知られており、日本各地から発見されていたが、長い間幻の水晶として語られていたという。
10年ほど前に群馬からまとまった産出があったものの、すぐに採り尽くされてしまった。
そのうちの一つがこれ。

参考:日本式三連双晶の図解
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/pegma/index.html

鳥形日本式三連双晶には、左右対称に成長した双晶の間隔が、60度のものと、120度の二種類がある。
どちらかひとつ。
60度のほうを譲っていただいた。
今にも羽ばたかんとする鳥の羽根に、希望を感じた。
探し求めた究極の日本式双晶がここにある。


21×15×14mm

2011/10/14

パープライト


パープライト Purpurite
Usakos, Karibib District, Erongo Region, Namibia



パープライト。
ビロードのようになめらかな光沢と、深みのある赤紫色を特徴とする。
加工には向かず、宝石やビーズでは殆ど流通しないとされている。

近年、人気の高まりとともに、ビーズなどでも見かけるようになった。
パープライトは非常にもろく、こすると色移りする性質がある。
何らかの処理はなされているはず。
意外かもしれないけれど、現在流通しているパープライトは、そのほとんどが処理されたもの。
写真の原石にみられるメタリック・パープルの輝きも、酸処理に因るものである。

ある日、街を歩いていると、道端にビニールシートを広げ、石を売っている青年に出会った。
路頭に迷っているところを親切な人に救われ、石を安価で譲り受け、生計を立てているという。
並べられている石の中に、パープライトがあった。
彼はパープライトが処理されたものであることを知っていた。

私に鉱物の世界を教えてくださった女性がいる。
路上で倒れていた私に声を掛けてくださった。
一杯のコーヒーをご馳走になり、旦那様の経営する鉱物店へ案内していただいた。
鉱物の販売に携わるようになったさいには、卸先としてお世話になった。
のちにその男性が、鉱物業界では名の知れた人物であることを知る。
私は運がいいとつくづく思う。
当時の私は、抜け殻に等しかった。
全てを奪われ、もはや生きる気力すらも枯れ果てて、何も残ってはいなかったから。

嫌な予感がした。
その青年に、その時の女性を知っているかどうか尋ねたところ、やはりというかそうだった。
世の中は狭い。
彼いわく、その女性から譲られた石を路上で販売しているとのこと。
路上での物品販売は違法である。
恩を仇で返す行為ではないか。
複雑な思いだった。

ちなみに、パープライトの産地として最も有名なのは、ナミビアのウサコス鉱山。
こちらの標本もウサコスからやって来たもの。
素敵なネーミング…
などと反応するのは、私だけだろうけど。
元ヒッピーである某鉱物店の社長さんに、ウサコスへ連れて行って欲しいと頼んだことがある。
「無理」と言われた。
ウサコスがどんなところか検索してみたら、こんなのとかこんなのとかこんなのが出てきた。
ちょっと無理かもしれないと思った。

宇宙とのつながりが語られることの多いパープライト(注1)。
神秘性、高貴さを象徴とし、想像力や理解力を高める力があるそうだ。
支配や束縛からの開放を促し、新しい世界への旅立ちを支えるともいわれている。


29×18×17mm  10.2g

2011/10/08

ザギマウンテンクォーツ


ザギマウンテンクォーツ
Zagi Mountain Quartz
Zagi Mountain, Mulla Ghori, Khyber Agency, FATA, Pakistan



ザギマウンテンクォーツ。
パキスタンのザギ・マウンテンから産出する水晶である。
さまざまな呼び名があるようだが、ここではザギマウンテンクォーツと呼ぶことにする。
ヒーリングストーンとして名高い石で、その存在は以前から知っていた。
ピンと来ないというのが正直な感想だった。

ザギマウンテンクォーツの特徴は、その多彩な内包物。
エジリン、アストロフィライトのほか、トルマリン(ブラックトルマリンなど)、アンフィボール類(アクチノライト、リーベカイトなど)を含む。
ベースはクリアクォーツ。
内包物によって、赤やオレンジ、グリーン、ブラウン~ダークブラウン、黒などの色合いを示す。
初期は大小さまざまな、シンプルなポイントが中心だった(本文下右側の写真)。
現在はエレスチャル状、ポイント状、塊状など、多様化が進んでいる。
スモーキークォーツやミルキークォーツ・ベースのザギマウンテンクォーツも見かけるようになった。
今やその存在の不透明さは加速するいっぽう。

写真の石は、プレゼントとして偶然に付けていただいたもの。
うわ、なんじゃこりゃと思った。
よくわからんが、すごい。
後日、ザギマウンテンクォーツであることが判明。
小粒にしてこの存在感、本物だ。

大好きな西アジア。
これは絶対にザギマウンテンに登らねばならない。
標高175メートルなら余裕だ

今はほとんど使っていない、バックパックの出番が来たようである

※聖地ザギマウンテン付近の様子はこちらからどうぞ

現実は甘くない。
調べてみると、そう簡単には行けない土地であることがわかった。
聖地により外国人立入禁止説、乱獲により規制が入った説、タリバン出現につき国際的に入山不可能説、などが推測されたが、いずれにせよ外国人が入るのは容易いことではないと感じた。
ネットショップでは、聖地である旨説明されていることが大半。
もし最後の説が本当だったとしたら、命を覚悟しなければならない。
パキスタンの情勢が極めて不安定なのは、ご存知の通り。

聖地に関しては思うところある。
外国人、特に日本人の海外での評判は、悪い。
現地の人々の感覚に合わせることをしないからだ。
意図的に遠ざけられた可能性はある。
パキスタンのように信仰が根付いている国においては、外国人が現地の人に打撃を与えることも少なくない。

パキスタンには好戦的な人が多いと思っている人が多いが、そうではない。
飾ることなく誠実で、温かな心をお持ちの方々だ。
宗教の異なる日本人に対しても、親切に接してくれることが多い。
我々日本人は、宗教と聞いただけで抵抗感を持ってしまいがちだが、現地での信仰心は、日本でいう法律であり、道徳であり、生活の一部でもある。
例外はある。
たとえば、戦争のあった地域で生まれ育った人々。
家や家族を失い、心に深い傷を負った彼らが、やむなく道を外れることもある。
詐欺や麻薬取引などの犯罪に関わっていたのは、私の知る限りでは、戦地など複雑な環境に育った人間だ。

ザギマウンテンについて、この石を譲ってくださった方に伺ってみた。
情勢が悪いというのは現実のよう。
ザギに登るのは厳しいと感じた。
私のような外国人が間違いを犯す(犯した)可能性も十分に考えられる。

ザギマウンテンからはバストネサイトのほか、ゼノタイム、イルメナイト、モナズ石などの希少石が産出することで知られている。
現地がレアアースの宝庫であることが判明したのは、ごく最近。
2001年頃だといわれている。
これも不思議な偶然で、近年においては最も危険だった時期である。
殺害されたテロリストが、アフガニスタンからパキスタンに逃亡したのは有名な話。
私がパキスタンを旅したのは11年前。
テロ発生の前年だが、空港は厳戒態勢が敷かれており、税関で厳しい検査があったのを鮮明に覚えている。

話を戻そう。
ザギマウンテンクォーツは、多彩な内包物を持つことで知られる。
中でも、アストロフィライト、エジリンが入ったものは人気があるようだ。
本文下、左は、手持ちのザギマウンテンクォーツの拡大写真。
最近入手したもので、アストロフィライトが内包されているということだった。

結晶中の太く黒い針がエジリンだという(→拡大写真)。
一本だけ確認できる太いオレンジの針は、なにか。
実は、過去のザギマウンテンクォーツに、このオレンジの針が高い確率で含まれていた(本文下の写真参照)。
エジリンではないし、ルチルにしては色が濃く太すぎる。

一般的に、アストロフィライトは繊細な繊維状のインクルージョンとなって、結晶全体をレッド~オレンジに染めるといわれているが、私にはオレンジの針が本来のそれではないかと思えてならならないのだ。
アストロフィライトとされる、オレンジの微細な毛状のインクルージョンは、私にはどうも、アンフィボール(角閃石)の類いにみえる。
マダガスカル産のアンフィボール入り水晶に、このような色合いを頻繁に見かける。
アストロフィライトのインクルージョンというのは他では聞かないから、相当珍しいはずだ。

なんとなく、気になる。
まあ、いいや。
この石にはきっと、危険を承知でザギへ入っていったパキスタンの人々の勇気、そして温かな心が、あふれんばかりに詰め込まれている。




14×11×6mm  7.78ct

2011/10/07

サラードクォーツ


サラードクォーツ Sarado Quartz
Diamantina, Minas Gerais, Brazil



サラードクォーツ。値札つき。
蝕像水晶(→レコードキーパーの項、注1参照)の一種。
角が溶けて丸くなっているのが特徴だろうか。
サラードは地名ではなく、現地の言葉で「回復」という意味。
透明感のある爽やかな水晶に、ビシビシと刻まれた侵食の跡が強烈である。
今でこそ価値を認められたサラードクォーツだが、価値がわからなければ「少し変わった水晶」でしかない。
そのため、こちらのサラードクォーツも、最近まで当家において不当な扱いを受けていた。

出会いは4年ほど前、某ミネラルショーにて。
無造作に並べられた水晶の山の中に、コレがあった。
ブースには、ぶっきらぼうな中年女性が2人。

「コレ、何の石ですか?」
「水晶です」
「面白い形ですね」
「パワーあるわよ」
「どんなパワーがあるのですか?」
「…」
「おいくらですか?」
「3000円」
「何か、意味があるのですか?」
「お買い得だと思うわよ」

やる気が全く感じられない。
ヒーリングストーンの知識にかけては半端ないはずの連れも、まったく興味のない様子。
つまるところ、誰にも価値がわからない。
この名も無きクリスタルに、3000円を投じるべきか否か。
今を逃すと後悔する、そう直感した。

そしてこの「謎の水晶」は、我が家の倉庫に奉納された。
たまに見かけて、手に取る程度。
そうして、4年が経った。

今年の夏、サラードクォーツなるものをネットで見かけ、興味を持った。
さっそく注文した翌日の晩、立ち寄った実家で写真の石と再会した。
目を疑った。
ネットで見たものと、全く同じではないか。
Saradoというラベルまで貼ってある(貼りっぱなし)から、間違いない。
ようやっと正体が判明し、日の目を見ることになったサラードクォーツ。
あの頃はまだ蝕像水晶という言葉は一般的ではなく、アイスクリスタルも流通し始めたばかりで、先のミネラルショーで出会ったお店の方もご存じなかったのだろう。

ネットショップさんには、あわててキャンセルをお願いした。
お店の方にはご迷惑をおかけしたが、入金前だったのが幸いし、キャンセルをお許しいただいた。
実家には半年に一度寄る程度。
このタイミングでの再会も、何かのご縁ということか。

帰宅後、調べてみた。
ディアマンティーナ産の蝕像水晶を、総じてサラードクォーツと呼んでいるようである。
ネットショップで見かけたものは、手持ちのサラードクォーツと同じ、角が溶けて丸くなっているタイプだった。
諸説あるのかもしれない。

水晶の名産地・ブラジルでは、どんな個性的な水晶にも愛称を与え、お守りにする習慣があるようだ。
日本人にはわかりづらい感覚かもしれない。
こうして今、サラードクォーツが評価されているのは、とても嬉しい。
一部が削れてしまっているのは、私のいい加減な保管によるもの。
床に置くのはやめ、箱にしまった。
付加価値を考慮せず、直感だけで購入した水晶に価値がわかることは滅多にないから、不思議な偶然に驚いている。


81×30×26mm  77.3g

2011/10/05

オーロベルディ


オーロベルディ Oro Verde
Diamantina, Minas Gerais, Brazill



メタモルフォシスをご存知だろうか。
見た目は普通のミルキークォーツ。
ガンマ線を照射すると真っ黒になり、その後300℃程度で加熱すると美しいグリーンゴールドに変化することから、変容・変革の象徴として、メロディ氏(→スーパーセブン参照)によりメタモルフォシスの名を与えられた。
オーロベルディは、いわばメタモルフォシスの変革後の姿。

ポイント状のオーロベルディは珍しい。
メタモルフォシスは塊状で産出し、オーロベルディも同様の形状を持つことで知られている。
こちらはメロディ氏と交流のあった海外のクリスタルヒーラーが所有していたオールドストック。
ごく初期に得られたオーロベルディのポイントとのこと。

元祖メタモルフォシスは、多少クラックの入った、大き目のタンブルだった。
形はいびつで、決して格好いいものではなかった。いっぽう、オーロベルディは、切り取られたような破片状の塊。
比較的小さな原石が多く、加工品の場合はそのほとんどに激しいクラックが入っている。
現在は、タンブルではない破片状のメタモルフォシスも、メロディ氏経由で出回っている。

実はこのメタモルフォシス、現地では以前からミルキークォーツとして知られており、珍しいとされるピンク・メタモルフォシスのほうも、ローズクォーツとして流通していた。
メタモルフォシスが知られ始めた段階で、既に国内に在庫のある業者もあったため、姿勢は二つに分かれた。
あくまでもミルキークォーツ・ローズクォーツとして売る業者もあった。
しかし、ミルキークォーツをメタモルフォシス、ローズクォーツをレアなピンクのメタモルフォシスとして扱い、国内で「変容」させたものをオーロベルディとして高値で販売、メロディ氏の人気に便乗しようとする人々も。

美しいグリーンゴールドを示すオーロベルディ。
こちらも以前から流通があった。
海外ではオーロベルディ・シトリンと呼ばれており、放射線処理を施した宝石として認識されている。
同じく放射線処理によって作られる、レモンクォーツと同じような扱い(レモンクォーツは淡いイエロー)。
見た感じ、シトリンの代用品として扱われているに過ぎず、色合いもグリーンゴールドとは言い難いので、大量生産が可能なレモンクォーツと混同されているのかもしれない。
ポイントの流通も多いが、多くはレモンクォーツの色合い。

オーロベルディの名について、メロディ氏が命名したという記述は見られない。
ただ、いっとき海外のヒーラーの間でも話題になっているので、この石にメロディ氏が関わっているのは事実。
メロディ氏はもともとあった石にインスピレーションを受け、特別な名称を与えることが多いようだ。
本物か偽物かを問う以前に、付加価値の有無に問題があるように思う。
正規のルートで仕入れた場合、オーロベルディは「変容後」の姿で日本に入ってくる。

彼女のネームバリューはかなりのものであり、売り手にとっては死活問題。
そのため、メロディ氏の紹介した石が、彼女自身から仕入れたものかどうかが度々問題になった。
付加価値をつけるならメロディ氏を通すのは当然のこと。
メロディ氏経由で仕入れているところもある。
どちらを選ぶかは好みの問題で、出所にこだわる必要はない。
流通経路が不明、かつあまりにも高額な場合は、購入元に問い合わせてみよう。


メロディ氏によると、オーロベルディは持ち主に人生の深い意味を体験させ、成熟した人間性を育くむという。
また、強いエネルギーで持ち主を保護し、新しい未来を切り開いていくための意志と力を運んでくるとされている。


30×18×14mm 10.2g

2011/10/04

チンカルコナイト


チンカルコナイト
Tincalconite after Borax
Boron Open Pit, Boron, Kern County, California, USA



チンカルコナイト(チンカルコ石)。
その名のとおり、珍石である。
もし持っておられるなら、余程のレアミネラル収集家か、ネタとして購入した方ではないだろうか。

チンカルコナイトは、透明なボラックス(硼砂)という鉱物が、空気に晒されることによってできる。
専ら工業用、産業用に用いられる。
その用途は多彩で、過去には放射能漏れ事故のさいの応急処置に活躍したこともあるそうだ。

標本としてはほとんど出回っていない。
地味な上に、取り扱いが難しいからだ。
うっかり水で浄化しようものなら、溶けて無くなるらしい。
乾燥が過ぎると崩れて粉末になる。
加えて、もろく破損しやすい。
非常に軽く、風に吹かれてどこかへいってしまうこともあるという。

同じタイプの名前の石に、チンワルド雲母がある。
こちらも雲母だけあって、取り扱いが難しく、撮影中にヒビが入ってしまった。
とてもデリケートな鉱物たちなのである。

ちなみに、チンワルド雲母の名の由来は、ツィンヴァルト・ゲオルゲンフェルトというドイツの街。
ツィンヴァルト・ゲオルゲンフェルト雲母と呼んだほうがかっこいいような気がする。



ツィンヴァルト・ゲオルゲンフェルト雲母

25×13×6mm

今週、話題性が確認された10の鉱物

What Mineral Would You Take with You to A Deserted Island?